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2016年6月30日

災害環境研究と福島支部の設置について

滝村 朗

 国立環境研究所は、東日本大震災の直後から、理事長のリーダーシップの下で復旧・復興貢献本部を立ち上げ、大震災による環境汚染と環境の回復に関する研究を災害環境研究と位置づけて活動を続け、科学的な知見や情報の発信を通じて、政策貢献・被災地支援を進めてきました。

 具体的には、環境中における放射性物質の計測・シミュレーションを通じた動態解明・将来予測、ヒトへの被ばく量解析及び生物・生態系に対する影響評価に関する「多媒体環境研究」と、災害廃棄物や放射能物質に汚染された廃棄物の適切な管理、処理・処分方法などに関する「廃棄物・資源循環研究」を中心に研究を進めてきました。現在は、これら2つの研究を、放射性物質により汚染された被災地の環境をできるだけ速やかに回復することを目的とした「環境回復研究プログラム」に統合し、研究を鋭意推進しています。

 さらに、環境配慮型の地域復興・まちづくりを支援する「環境創生研究プログラム」や、これまでの災害における経験を将来の災害に備え活かしていくための「災害環境マネジメント研究プログラム」にも取り組んでいます。

写真1 福島県環境創造センターの外観

写真2 福島支部開所式(平成28年6月7日)

 2016年4月、福島県三春町の福島県環境創造センター内(写真1)に、研究所では初めての地方組織となる福島支部を設置しました。今後は、地元の方々のニーズに応え、より一層現地に根ざした研究活動に取り組むことができるものと考えています。福島支部では、一部先行して赴任したメンバーを中心に、機器の搬入など立ち上げ準備を進め、6月7日に開所式(写真2)を行い、本格的な活動を開始したところです。福島支部を現地拠点としてつくば本部とも連携しつつ、3つの災害環境研究プログラムを柱とした研究を展開します(図1)。具体的には、

(1)環境回復研究プログラム
 放射性物質に汚染された廃棄物等について、適切な保管・中間貯蔵及びこれらの減容化・再生利用・処分に関する技術システムの構築に向けた研究開発を進めます。また、環境中に残存している放射性物質について、動態解明と将来予測、生物・生態系への影響評価、生活圏における被ばく評価など、長期的な影響評価と環境保全手法の構築に向けた研究に取り組みます。

(2)環境創生研究プログラム
 福島県浜通り地域を対象として進めてきた環境と調和した復興のまちづくり支援研究を、さらに発展・展開します。地域情報データベースを構築して環境とエネルギー資源の地域ポテンシャルを診断するとともに、統合評価モデルを活用して将来シナリオを作成し、さらに住民参画型の環境創生手法などを開発し、復興地域への社会実装を科学面から支援していきます。

(3)災害環境マネジメント研究プログラム
 将来の災害に環境面から備えるため、災害廃棄物の処理など強靱な資源循環・廃棄物管理システムの構築や、化学物質等の流出による環境・健康リスク管理戦略づくり、さらにそれらを支える人材育成やネットワーク構築のための研究を進めます。本年4月に発生した熊本地震の際にも、昨年環境省主導で発足したWaste-Net(災害廃棄物処理支援ネットワーク)の活動の一環として災害廃棄物の現地調査・支援活動を行ったほか、河川等の化学物質汚染調査を実施しています。

図1 災害環境研究プログラムの構成


 さてユニット紹介ということなので、最後に組織面での特徴を少しご紹介したいと思います。

 福島支部は、つくば本部以外に設置した初めての地方組織ですが、研究部門はさまざまな専門分野の研究者で構成される分野横断型の組織です。これに加えて管理部門も同じユニット内にあり、両部門が協力し、また、つくば本部とも連携して業務を進めます。また、福島環境創造センターにおいては、福島県、日本原子力研究開発機構そして私ども国立環境研究所の三機関が一つ屋根の下で活動していくことになります。地方自治体と国の研究機関が一体となって運営する組織は全国でも珍しく、それぞれの機関の特徴、強みを活かして分担・連携して取り組むことで、より大きな成果が得られ、福島県の環境回復・創造に一層貢献していけるものと期待しています。

 こうしてみると福島支部は様々な「協力」「連携」によって成り立っていますし、もちろん他の国内外の諸機関とのネットワークも欠かせません。調整の難しさもありますが、これまでにない実効性の高い運営と成果の最大化が実現できるよう、関係づくり、ネットワーク構築に努めてまいります。引き続き皆様方のご指導・ご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

(たきむら あきら、福島支部長)

執筆者プロフィール

滝村 朗

研究所では企画部で長く仕事をしていましたが、研究実施部門は初めてです。事務系のユニット長としては少々勝手が変わりますが、大原研究総括と二人三脚で、皆が気持ちよく仕事ができるような支部運営を心掛けたいと思っています。

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