ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2022年1月10日

物質フロー革新研究プログラム始動

特集 物質フロー革新研究プログラムPJ1
「物質フローの重要転換経路の探究と社会的順応策の設計」から

南齋 規介

 国立環境研究所は2021年4月から第5期中長期計画(5年間)に入り、その中で8つの戦略的研究プログラムを開始しました。本特集では、その一つである「物質フロー革新研究プログラム」をご紹介します。このプログラムの他のプログラムにはない特徴は、その名前から何を研究するのか分からないことです! 自慢げに言うことではありませんが、気候変動や脱炭素、環境リスクなどを冠するプログラムの方が断然明確かと思います。そのため、この巻頭記事ではまず、研究背景と共にプログラム名の意図するところを説明します。

 2019年に発表されたUNEP-International Resource Panel(国連環境計画・国際資源パネル)の報告書では、天然資源の採掘と加工は世界の温室効果ガスの5割を排出し、生物多様性損失の9割と大気汚染による健康被害の3割を生み出すと言われています。経済成長と天然資源の採掘と加工をいかにデカップリング(経済活動に必要な資源消費量の削減)するかが、社会の持続性を高めるための鍵となります。例えば、2050年カーボンニュートラル社会の構築を見据えるだけでも、急速かつ飛躍的な分離が必要となることが想像できます。本プログラムでは、天然資源とそれに端を発する素材や製品、廃棄物を総じて「モノ(物質)」として注目し、その使用量や再生量、使用年数などの使われる様を経済・社会における物質の「流動(フロー)」と理解することで、社会の持続性の基盤となる物質フローの状態を同定します。現在、世界は年間920億トン(2017年値)の資源を採掘していますが、持続性の基盤となる物質フローは現在の形から飛躍的に変わる必要があることは容易に推測されます。そこで、革新的な物質フローの転換を創造する必然性を強調するため「革新」をプログラム名に添えています。

 本プログラムの目標は、資源の持続的利用に向けた物質フローのライフサイクル全体を捉えた評価と改善に係る研究を通じて、物質フローに求められる将来変化を質的量的に示すための科学的知見を集積することです。その知見を社会に還元し、物質のライフサイクルに関わる様々な生産者と消費者が「物質フローの長期的な革新戦略を持つ」という潮流を社会に築くことを促進します。プログラムは、3つのプロジェクト(PJ1、PJ2、PJ3)から構成され、システム系、リスク系、技術開発系の研究者と技術者が参画しています。「物質フローの重要転換経路の探究と社会的順応策の設計」と題するPJ1は、物質フローとそれに伴う環境影響をモデル化し、環境許容量を超えない物質フローの変革の方向性と数値目標の導出を行います。同時に、変革する物質フローに対して、消費やライフスタイルはどのような順応が求められるかを検討します。PJ2は「物質フローの転換と調和する化学物質・環境汚染物管理手法の開発」と題し、物質フローの革新的転換を見据えたときに、とりわけ物質の高度な再生利用を阻害する要因となりうる化学物質や制度を同定し、それを除去する社会的方策を提示します。

 技術開発を軸とするPJ3「物質フローの転換に順応可能な循環・隔離技術システムの開発」は、物質循環のプロセスを炭素の吸収源とする技術の開発とシステム設計を行います。さらに、循環すべき物質だけでなく、社会から隔離が必要な物質についても焦点を当て、長期安定保管技術の開発にも取り組みます。

 本特集は、PJ1に焦点を当て、取り組む研究の一端を紹介します。「研究プログラム紹介」のページでは、物質フローのモデル化と数値目標開発に関して報告し、「研究ノート」では、脱炭素型のライフスタイルを日本の都市に着目して解説を行います。どちらの記事からも物質の再利用の有用性を再確認することができますが、PJ1では社会から隔離すべき物質のフローも分析します。水銀を対象として「環境問題基礎知識」の中で研究の概要を紹介します。

(なんさい けいすけ、物質フロー革新研究プログラム総括/資源循環領域 国際資源持続性研究室 室長)

執筆者プロフィール:

筆者の南齋規介の写真

初代(循環型社会研究PG)と先代(資源循環研究PG)から10年間受け継いだ伝統ある“循環”の文字をプログラム名から廃棄し、カタカナキラキラネームで新装開店です。三代目が店を潰す典型との噂もチラホラ。

関連新着情報

関連記事