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2022年2月15日

共同発表機関のロゴマーク
妊婦の鉛ばく露と生まれた子どもの性比との関連について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(文部科学記者会、科学記者会、宮城県政記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2022年2月15日(火)
東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野
  准教授      龍田 希
  名誉教授     仲井邦彦
エコチル調査宮城ユニットセンター
  センター長    八重樫伸生
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
コアセンター長    山崎新
      次長   中山祥嗣
 

   東北大学大学院医学系研究科の龍田 希(たつた のぞみ)准教授、エコチル調査宮城ユニットセンター(東北大学)の仲井 邦彦(なかい くにひこ)名誉教授らの研究グループは、国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)と共同で、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加した約10万組の親子を対象に、妊婦の血液中の鉛濃度と生まれた子どもの男女比(出生性比)との関連について解析しました。その結果、妊婦の血液中の鉛濃度が高くなることと男児の出生割合が大きくなることとの関連が示されました。
   本研究の成果は、令和4年1月20日付でElsevierから刊行される学術誌「Science of Total Environment」に掲載されました。

※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
 

1.発表のポイント

・妊婦の血液中の鉛(注1)濃度(妊娠中期・妊娠末期)と出生性比(注2)との関連を解析しました。
・妊婦の血液中の鉛濃度が高くなることと、出生性比が大きくなる、つまり、男児の出生割合が大きくなることとの関連が示されました。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露(注3)が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにすることとしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 一般的に、女児100人に対する男児の出生数は104-107人と言われており、男児の方が多く生まれます。近年、出生性比は世界的にみて低下傾向にあり、男児の出生数が減少しています。そのため出生性比に影響を及ぼす要因の検討が進められており、その要因の1つとして化学物質や重金属のばく露が指摘されております。鉛は流産や早産、低体重、高血圧などに影響を及ぼすことが知られていますが、出生性比への影響を調べた研究は少なく、限られた報告しか存在しません。そこで、エコチル調査に登録された方々を対象に、妊婦の血液中の鉛濃度とその妊婦から生まれた子どもの出生性比との関連を解析しました。
 エコチル調査は、環境省予算により長期にわたる出生コホート調査として進められてきた調査研究事業です。本研究にご参加いただいているご家族の皆様に感謝いたします。

3.研究内容と成果

 本研究では、エコチル調査にご参加いただいた104,602組の親子のうち、データの揃っている85,171組を対象に解析を行いました。生まれた子どものうち男児の割合は51.2%でした。妊婦の血液中の鉛濃度の中央値は5.85 ng/gでした。この血液中の鉛濃度と、出生性比との関連を調べたところ、妊婦の血液中の鉛濃度が高くなることと、男児の出生割合が大きくなることとの関連が示されました(図1)。図1の棒グラフは、出生性比に影響を及ぼす変数で調整した結果になります。すなわち、妊婦の血液中の鉛濃度が高いほど男児が生まれる割合が大きくなり、鉛濃度が低いほど女児が生まれる割合が大きくなることを示します。

4.今後の展開

 本研究では、妊婦の血液中の鉛濃度が高くなることと男児の出生割合が大きくなることとの関連が示されました。環境中の鉛濃度は人の鉛ばく露と密接に関連しているとされ、有鉛ガソリンの規制などが進むとともに大気中の鉛濃度は低下し、それに伴い人の血液中の鉛濃度も低下していることが諸外国のモニタリングデータからわかっています。近年、日本人においても男児の出生割合が低下しており、大気中の鉛濃度の減少が出生性比の変化と関連している可能性が考えられます。ただし、出生性比に関連する要因は鉛以外にも多くあるため、妊婦の鉛ばく露が出生性比にどの程度影響しているかはまだ十分にはわかっていません。また、海外の研究では鉛と出生性比の間には関連がないという報告や、男児が減少するという報告もあることから、鉛が出生性比に及ぼす影響についてはメカニズムの解析を含めて今後の研究課題と考えます。また、父親の鉛ばく露が出生性比に影響を及ぼすことも海外の研究として報告されています。今後、父親の血液中の鉛濃度が出生性比に及ぼす影響についても検証していく必要があります。

5.参考図

妊娠中期・妊娠末期の妊婦の血液中鉛濃度と出生性比の解析の図
図1. 妊娠中期・妊娠末期の妊婦の血液中鉛濃度と出生性比の解析

妊娠中期・妊娠末期の妊婦の血液中鉛濃度について、濃度が低い方から高い方へ5つに分割して解析しました。男児の割合は、出生性比に影響を及ぼす家庭の年収と妊娠中の喫煙状況で調整した解析値です。妊婦の血液中鉛の濃度が高くなることと、男児の出生割合が大きくなることとの関連が示されました。

6.用語解説

注1.鉛:鉛は自然環境に広く存在する重金属であり、さまざまな分野で利用されてきました。しかし、人体に対して貧血など有害な影響を及ぼすことがわかっております。
注2.出生性比:生まれた子どもの男女比を指します。本研究では男児の数を全対象者数で割った値で示しております。50%の場合には男児と女児の出生数が同数であることを意味し、50%よりも大きい場合に男児の割合が多いと判断されます。
注3.ばく露:化学物質などの環境要因にさらされることをいいます。

7.発表論文

【論文題目】
Effects of maternal exposure to lead on secondary sex ratio in Japan: The Japan Environment and Children’s Study
Authors: Nozomi Tatsuta, Kunihiko Nakai, Shoji F. Nakayama, Ayano Takeuchi, Takahiro Arima, Nobuo Yaegashi, Michihiro Kamijima, the Japan Environment and Children’s Study Group

タイトル:妊婦の鉛ばく露と生まれた子どもの性比との関連について:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
著者名:龍田希、仲井邦彦、中山祥嗣、竹内文乃、有馬隆博、八重樫伸生、上島通浩、エコチル調査グループ

掲載誌名:Science of Total Environment
DOI: https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.152726【外部サイトに接続します】

研究者情報
龍田 希 東北大学大学院医学系研究科 発達環境医学分野・准教授
研究室URL https://www.med.tohoku.ac.jp/laboratory/view/102【外部サイトに接続します】
研究者URL https://researchmap.jp/7000022385【外部サイトに接続します】

8.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
 東北大学大学院医学系研究科 発達環境医学分野
 准教授 龍田 希(たつた のぞみ)

【報道に関する問い合わせ】
 東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
 電話 022-717-8032
 FAX 022-717-8187
 E-mail press(末尾に@pr.med.tohoku.ac.jpをつけてください)

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