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2022年11月22日

共同発表機関のロゴマーク
低出生体重に関連する要因それぞれの効果の大きさについて:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2022年11月22日(火)
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
コアセンター長 山崎新 
     次長 中山祥嗣
 

   国立環境研究所エコチル調査コアセンターの西浜特別研究員らは、大阪府立病院機構大阪国際がんセンターの田淵部長補佐らと共同で、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)による91,559組の母子のデータを用い、これまでエコチル調査で低出生体重(生まれてきた子どもの体重が2,500g未満のこと)と関連があると報告された要因について、それらが低出生体重の原因となる割合を示す人口寄与割合(ある集団における全疾患のうち、特定のばく露が原因となる割合)を算出しました。その結果、関連のあった要因の人口寄与割合は、あわせて約80%でした。このうち、最も大きな割合を占めたのは、妊娠中の体重増加量が8kg未満であることでした(人口寄与割合:16.5%)。また環境要因である妊娠中の鉛へのばく露と喫煙の人口寄与割合は、あわせて約27%でした。これは、妊娠中の鉛へのばく露を最低限のレベルにし、かつ妊娠中の喫煙をやめることで、低出生体重の発生を約27%低減できることを示しています。
   本研究の成果は、2022年10月6日付でElsevierから刊行された環境保健分野の学術誌『Environment International』に掲載されました。
   ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
 

1.発表のポイント

・低出生体重※1と関連があった要因は、出産回数、子宮腺筋症※3既往歴、妊娠高血圧症候群※4、出産時の年齢、母の妊娠前BMI※5、妊娠時の体重増加量、鉛へのばく露、母の妊娠中の喫煙で、それらの人口寄与割合※2は、総計約80%でした。 ・このうち、低出生体重に最も大きな影響を与えていたのは、妊娠中の体重増加量が8kg未満であることでした(人口寄与割合:16.5%)。 ・環境要因である妊娠中の鉛へのばく露と喫煙の人口寄与割合は、あわせて約27%でした。これは、妊娠中の鉛へのばく露を最低限のレベルにし、かつ妊娠中の喫煙をやめることで、低出生体重の発生を約27%低減できることを示しています。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下「エコチル調査」という。)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 低出生体重の子どもは、体の機能が未熟なまま生まれていることが多く、その後の成長・発達にも影響が及びます。世界保健機関の報告書(WHO、2014年)によると、世界の出生児の15%から20%が低出生体重にあたるとされ、2025年までに低出生体重を30%減らすことを目指しています。日本では、1999年(8.4%)と2019年(9.4%)の間で低出生体重の割合が微増しており(厚生労働省、2021年)、これは東アジア・太平洋地域での低出生体重の割合の平均値6%(WHO、2014年)を上回っています。日本における低出生体重児を減らすために、関連がある要因を特定し、対策を立てることが重要です。
 そこで、これまでエコチル調査で低出生体重と関連があると報告されたすべての要因について、それらが低出生体重の原因となる要因の寄与を示す人口寄与割合を算出しました。

3.研究内容と成果

 本研究では、エコチル調査によって得られたデータのうち、出産(生産)、単胎、血液および尿試料がそろっているという条件に該当する91,559組の母子のデータを解析対象としました。参加者が自ら記入する質問票から、出産時の母の年齢、母の妊娠前BMI、出産回数、子宮腺筋症の既往歴、妊娠中の体重増加量、防虫・防カビ剤の使用、カフェインの摂取量、栄養状態のデータを、血液および尿試料の分析結果より、血中元素(水銀、セレン、鉛、マンガン)濃度と、喫煙状況を反映する尿中コチニン濃度のデータを収集しました。集めた要因について、それぞれの低出生体重に対する相対危険度※6を推定し、その相対危険度と、その要因を持つ母親の割合を用いて人口寄与割合を算出しました。
 その結果、低出生体重と関連があった要因は、出産回数、子宮腺筋症の既往歴、妊娠高血圧症候群、出産時の母の年齢、母の妊娠前BMI、妊娠時の体重増加量、鉛へのばく露、母の妊娠中の喫煙でした。これらの人口寄与割合の総計は79.4%であり、このうち妊娠中の体重増加量が8kg未満であることが、低出生体重に最も大きな影響を与えていました(人口寄与割合:16.5%)。また、環境要因である鉛へのばく露と母の妊娠中の喫煙を合わせた人口寄与割合は26.7%であり、妊娠中の体重増加量(8kg未満)を上回っていました。このことは、鉛へのばく露を減らし、母の妊娠中の喫煙をなくせば、低出生体重児を約27%減らせることを示唆しています。

4.今後の展開

 これまでエコチル調査で報告されてきた低出生体重と関連する要因から、低出生体重が発生する原因の約80%が説明できることがわかりました。妊娠中の体重増加量の不足が低出生体重に最も大きく寄与しているのは、日本人女性のボディイメージ(やせ願望)との関連が指摘されています(Kasuga et al., J. Epidemiol, 2022)。また、妊娠中の鉛へのばく露と喫煙という環境要因を減らすことで、低出生体重児の発生を低減できる可能性が示唆され、低出生体重児を減らすためには、医学的な要因(疾患や病歴)・身体的な要因(出産年齢や妊娠前・中の体重等)だけではなく、環境要因も重要であることが示されました。体重増加の目安や、鉛ばく露の軽減方法、喫煙の危険性についての情報を、あらためて周知する必要があると考えられます。一方、本研究では考慮しきれていない低出生体重との関連要因が存在する可能性があること、また、リスク要因の重複により人口寄与割合を過大評価している可能性があることに留意する必要があります。まだ確認されていない低出生体重の原因を特定するためにも、エコチル調査でさらなる研究を行う予定です。

5.参考図

低出生体重に関連していた要因の人口寄与割合の合計は79.4%でした。最も大きな割合を占めたのは、妊娠時の体重増加量(8kg未満)で16.5%でした。環境要因である鉛へのばく露と母親の喫煙の合計は26.7%で、妊娠中の体重増加量の人口寄与割合を上回っていました。

6.用語解説

※1 低出生体重:生まれてきた子どもの体重が2,500g未満のことをいいます。低出生体重の子どもは体の機能が十分に成熟していないまま生まれてくることが多く、出生体重が少ないほど重篤な障害を起こしやすいとされています。 ※2 人口寄与割合(Population Attributable Fraction):ある集団における全疾患のうち、特定のばく露が原因となる割合、言い換えれば、そのばく露がなくなれば発生しない疾患の割合を示す指標です。 ※3 子宮腺筋症:子宮内膜に類似した組織が子宮筋組織の中にできる疾患で、月経痛、月経血量過多等の症状があらわれます。 ※4 妊娠高血圧症候群:妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる状態をさします。 ※5 BMI(Body Mass Index):肥満度を表す国際的な体格指数です。[体重(kg)/身長(m)の二乗]で計算されます。 ※6 相対危険度:ある要因を持つ集団と、それを持たない集団を比べたとき、その要因を持つことで疾患の発生率が何倍になるのかをあらわし、ある要因と疾患の発生との関連の強さを示す指標となります。ここでは低出生体重児の生まれやすさを示しています。

7.発表論文

題名(英語):Population attributable fraction of risk factors for low birth weight in the Japan Environment and Children’s Study

著者名(英語):Yukiko Nishihama1, Shoji F. Nakayama1, Takahiro Tabuchiand2 and the Japan Environment and Children's Study Group3
1西浜柚季子、中山祥嗣:国立研究開発法人国立環境研究所
2田淵貴大:大阪府立病院機構大阪国際がんセンター
3グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成

掲載誌:Environment International

DOI:https://doi.org/10.1016/j.envint.2022.107560

8.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
次長 中山祥嗣
305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
E-mail:jecs-pr(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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