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2017年9月29日

温暖化や攪乱に対する土壌呼吸の観測研究の動向

研究をめぐって

 温暖化で土壌呼吸が促進し、大気中にたくさん炭素が放出されることによって、さらに温暖化を引き起こすこと(正のフィードバック)が懸念されていますが、土壌呼吸が加速される決定的なメカニズムは、まだ十分に解明されていません。そのため、温暖化でどれほど土壌呼吸が増加するのか、その量的評価に関しては、不確実性が高いと言われています。また、エルニーニョや台風(豪雨)、熱波などの自然攪乱、森林伐採や熱帯湿地開発、都市化などの土地利用の変化や、非定常的なプロセスによる土壌有機物分解の影響評価も重要であると考えられます。

世界では

 現在、陸域生態系における炭素収支の観測が、世界的な観測ネットワークであるFLUXNETによって、世界の約920地点で行われています。そのうちアジア地域では、日本と中国の研究者を中心として、200ヵ所以上の拠点で観測が行われています。しかしながら、陸域生態系から放出される二酸化炭素の約8割を占める土壌呼吸に関しては、汎用的な市販の観測システムがほとんど存在しなかったことから、1年以上にわたる長期連続観測は、ほとんど報告されていませんでした。

 約10年前から、米国の会社が自動開閉チャンバー式土壌呼吸測定システムを市販していますが、測定面積が小さいことや、高価なことなどから普及しておらず、特に日本には全く導入されていません。

日本では

 パリ協定において、日本は温室効果ガスの排出量を2030年までに26%削減することを約束し、そのうち森林整備等による二酸化炭素吸収促進を2.6%と見込んでいます。日本の気候は湿潤な海洋性気候であり、森林の高い生産性によって、豊富な有機炭素が土壌中に蓄積されています。一方、世界各地の土壌に比べて、日本の森林土壌の約80%は火山灰を母材とする比較的若い(未熟な)土壌であり、蓄積された有機物も、数年から200年程度の相対的に短い滞留時間を持つものが多いと考えられています。

 若い有機物は易分解性(分解されやすい性質)であり、温度の応答性も敏感であることが知られています。そのため、土壌呼吸が温暖化によって継続的に促進される場合、従来の予測における二酸化炭素の吸収量を、下方修正する必要があります。

 そこで、環境省環境研究総合推進費に設けられた戦略的研究開発領域では、2002~2007年にかけて、日本を中心に、シベリアおよび東南アジアの陸域生態系における土壌呼吸に関する広域調査を行いました。しかし、それらの調査における測定手法は、すべて定期的に手動で行われたもので、連続的な観測は行われませんでした。

国立環境研究所では

 1999年に始まった地球環境モニタリング事業「北方林における温室効果ガスフラックスモニタリング」では、森林を中心として、陸域生態系炭素循環の測定法の開発が続けられています。また、低炭素研究プログラムでは、マルチスケールの温室効果ガスに関する観測を、アジア太平洋を中心として国際的に展開し、気候変動影響を考慮した自然生態系における二酸化炭素吸収・放出変動応答の検証を行っています。その中で、私たちが独自に開発したマルチチャンネル自動開閉チャンバー式測定システムは、2000年より北海道の苫小牧国有林、北海道最北端の針広混交林、富士山北麓の森林に設置され、土壌呼吸を中心とした森林生態系における炭素収支プロセスの連続測定に用いられています。

 その後、北海道大学や弘前大学、静岡大学、広島大学、宮崎大学、日本原子力研究開発機構との連携の下、日本の10ヵ所の代表的な森林生態系において同様の観測研究を展開しました。また、地球規模での課題解明へ向けた国際的な連携を考慮し、チャンバーネットワークを海外にも展開しています。それを通じて、現地研究者のキャパシティ・ビルディングを行うとともに、日本のアジア地域における学術的なイニシアティブを発揮しています(写真3)。

 特に、温暖化条件下におけるアジアの森林土壌に蓄えられている膨大な炭素の行方を探るため、日本に6ヵ所、中国南部に4ヵ所、計10ヵ所の森林において温暖化操作実験を展開しました(図8)。また、土壌微生物の遺伝子解析と放射性炭素(14C)の分析法を用いて、温暖化環境下における有機炭素分解促進メカニズムの解明を目指しています(写真4)。

図8(クリックで拡大画像を表示)
図8 温暖化操作実験ネットワーク
既存の研究における27ヵ所の温暖化操作実験サイト(黒;Carey et al. 2016より)と国立環境研究所が展開した10サイト(星マーク)
機器の写真
1 温暖化操作実験におけるメタンおよび炭素・酸素同位体観測の展開
台湾での協力者たちの写真
2 台湾南部に新しく観測システムを設置した際の台湾大学の協力者たち
マレーシアでの写真
3 マレーシアにおけるトレーニングコース
宮崎県での写真
4 宮崎大学演習林における合同調査のメンバーたち

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