- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1517CD014
- 開始/終了年度
- 2015~2017年
- キーワード(日本語)
- 潮間帯生物,原発事故,放射性核種
- キーワード(英語)
- intertidal biota,Fukushima nuclear disaster,radionuclides
研究概要
2011年3月の東日本大震災に付随した東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により大量の放射性核種が漏れ出し、環境を汚染した。海洋汚染はフォールアウトと原子炉冷却水の直接漏洩によって生じ、海産生物は汚染(核種の蓄積)に加え、急性被曝したとみられる。現在も1Fから90Sr等の漏出が続いており、慢性被曝の可能性もある。申請者は2011年12月に1Fの半径20km圏内(警戒区域:当時)で予備調査を行うなどした結果、イボニシが広野町〜双葉町(1Fを含む約30km)で激減し、1F南側で付着動物の種数や個体数等も低減していることを見出した。この異常な状態の推移追跡と原因究明が本研究の目的である。現地調査(イボニシ個体群及び付着動物群集)と室内実験(急性影響と慢性影響の観点から被曝線量評価とともに実施)に基づき、1F事故後の潮間帯生物相の変化・原因究明と放射線による影響評価を行う。
研究の性格
- 主たるもの:応用科学研究
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
現地調査と室内実験により本研究を進める。現地調査として、定期的に野外調査〔1)付着動物群集調査と2)イボニシ個体群調査〕を行う。なお、核種分析は、ゲルマニウム半導体検出器(Cs-137等のγ線核種)とガスフロー計数装置(Sr-90)による。
現地調査:定期的な野外調査鍵〔1)は5月に実施。2)は毎月実施〕
1)付着生物の種数、個体数、湿重量(波崎、日立、富岡、大熊、双葉、南相馬、石巻:コドラート法)
2)イボニシ個体群密度、殻高組成、性成熟及び産卵調査(富岡、大熊、双葉、南相馬)
室内実験:作業仮説「原子炉から漏出の放射性核種/有害化学物質の急性影響により潮間帯生物が斃死」
3)曝露実験:イボニシに対する曝露実験(Cs-137, Sr-90, ホウ酸及びヒドラジンなど)
4)影響解析実験:被曝イボニシの病理組織学的観察、分子生物学的手法によるネクローシス(炎症、壊死)及びアポトーシス(細胞死)、細胞周期、DNA修復機構関連遺伝子の単離、遺伝子発現、タンパク発現並びにリン酸化状態の解析
今年度の研究概要
1)付着動物群集調査
2012年より調査を行いデータが蓄積されている茨城県の神栖市と日立市、福島県の富岡町、大熊町(1Fの南側約1 km)、双葉町(1Fの北側約1 km)、南相馬市、及び宮城県の石巻市の7地点において、5〜6月に50cm×50cmの方形枠を用いて、付着生物の種数、種別の個体数と湿重量を調べる(コドラート法)。なお、各地点とも、鉛直方向に3箇所で付着動物群集を採集する。
2)イボニシ個体群調査
2011年12月の予備調査以降、データが蓄積されている福島県の富岡町、大熊町(1Fの南側約1 km)、双葉町(1Fの北側約1 km)、南相馬市の4地点において、定期調査を行う。イボニシ個体群密度(単位時間当りの採集個体数)、殻高組成を解析、生殖巣の組織学的観察による性成熟、各地点における産卵の有無を調べる。
また、上述の作業仮説検証に向けた室内実験として、3)放射性核種等の曝露実験と4)影響解析実験を行う。
3)放射性核種等の曝露実験
イボニシ(茨城県ひたちなか市平磯産)に対する、原発事故時に海洋環境中へ流出したおそれのある化学物質の影響評価の一環として、ホウ酸及びヒドラジンに対する曝露実験を行う。鰓や直腸などの組織標本を作製し、光学顕微鏡で観察する。
4)影響解析実験:被曝イボニシの病理組織学的観察、ネクローシス(炎症、壊死)及びアポトーシス(細胞死)の分子生物学的手法による解析
今年度も、引き続き、アポトーシスに重点を置き解析を行う。解析方法は、ヘマトキシリン・エオシン染色による組織形態の判断及び、TUNEL(TdT-mediated dUTP nick and labeling)法によるin situ染色によるアポトーシス細胞検出、ならびに組織からのDNA抽出後、電気泳動によるDNA ladder解析によるアポトーシスの判定とし、影響部位を明らかにする予定である。なお、無脊椎動物におけるアポトーシスの既往知見が限られているため、上記放射線影響による細胞死解析手法の確立に向けた予備検討として、有機スズ曝露によりイボニシの鰓で細胞死を誘導し、モデル系としての解析も継続する。
外部との連携
鹿児島大学水産学部(久米元・准教授)