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海洋CO2吸収量評価の精緻化を目指した低次生態系・炭酸系の広域観測(令和 4年度)
Basin-scale observations of carbonate system and marine ecosystem for accurate evaluation of oceanic CO2 uptake

研究課題コード
2226BB002
開始/終了年度
2022~2026年
キーワード(日本語)
海洋表層二酸化炭素分圧,海洋二酸化炭素吸収,低次生態系
キーワード(英語)
ocean surface pCO2,oceanic CO2 uptake,marine ecosystem

研究概要

海洋炭素循環は人為起源二酸化炭素(CO2)吸収による変化だけでなく、物理変化や生態系変化の影響も受けている。本課題提案では国立環境研究所と水産研究・教育機構がこれまで沿岸域から太平洋域で実施してきた表層物理化学観測に加えて、生物センサーを用いた植物プランクトンの群集組成観測を実施することにより、低次生態系の変動を考慮した海洋表層CO2分圧推定手法を確立して大気海洋間CO2交換量の不確実性低減を図り、炭酸系分布変動を明らかにすることを狙いとしている。海洋生態系は温暖化だけでなく酸性化や貧酸素化のストレスに晒されており、本課題遂行によりこれらの要因による海洋炭素循環変化について明らかにすることも期待できる。

研究の性格

  • 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
  • 従たるもの:行政支援調査・研究

全体計画

(1)海洋表層炭酸系変動および植物プランクトン群集組成把握
 先行課題において国環研の協力貨物船や水研の漁業調査船はpCO2やアルカリ度等の採水観測等を行っており、本課題でもこれらを継続して実施する。さらに、本課題では両機関の船舶に多波長励起蛍光光度計(アドバンテック社製、右写真)と呼ばれる生物センサーを設置して舶航走観測を実施することで沿岸域から外洋域に至る植物プランクトン優占群集の時空間変動を把握して炭酸系変動との関係を明らかにすることで、サブテーマ(3)で行う炭酸系分布評価の精緻化に貢献することを目指す。例えば、北太平洋高緯度海域では近年炭酸カルシウムの殻を持つ円石藻類のブルームが温暖化によって顕著になったと報告されている(Harada et al., 2012, Global Biogeochem. Cy.)。導入する装置は、植物プランクトンの蛍光特性を測定することで、現存量と生物群集組成の情報をpCO2と同様の時空間解像度で得ることができる。サンプリングが主体となる従来手法(国環研の観測では1日3サンプル)と比べて高頻度な観測で可能であることに加え、メンテナンスの容易さも相まって、近年注目されている。当該海域周辺海域の海洋炭酸系や大気海洋間CO2フラックスの変動もこれらの現象により影響を与えているものと考えられ、特に円石藻類の大規模発生は海洋によるCO2吸収を弱める恐れがある。国環研による貨物船pCO2観測においてもその影響と思われる変化の一端を捉えているが、pCO2の変動や採水観測だけではその理解に限界があった。そこで、これまで継続してきたpCO2と炭酸系等の採水観測に加えて、生物センサー観測を追加することで、これらの海域を含めた観測海域での海洋炭酸系変動の実態を把握する。
・本課題での研究内容
2022年度 生物センサー観測の試験運用
      表層栄養塩・炭酸系観測の実施
2023-26年度 生物センサー観測の本格運用
     表層栄養塩・炭酸系観測の実施
     国環研等による表層採水観測データの発信
(2)国際観測データベースへの貢献
 国環研では、1995年以来民間商船の協力のもとで北太平洋の海洋表層pCO2観測を継続実施してきた。これまでに、北太平洋の日本−北米航路海域では1995年からの25年間、西太平洋の日本−オセアニア航路海域では2006年から14年間の密な観測データを得た。協力貨物船による海洋表層pCO2観測データを、船上(0次)データから確定データにするためには、海面水温、塩分、大気圧、観測室気圧など多くのパラメータを取り入れた計算プロセスが必要で、先行課題で一連の作業の効率化を進めてきた。またSOCATや海洋CO2観測リファレンスネットワーク(SOCONET)が求める高精度観測を実施するために精度の高い機器を導入するだけでなく、海水試料による校正等を迅速に行う体制を整え、その結果協力貨物船が日本に帰港して0次データを回収してから半年以内で公開するというプロセスを定常的に実施できるようになった。
迅速なデータ処理プロセスには、経験を積んだ技術の高いデータマネージャーが必要である。また、SOCATでの他機関データ品質確認においても国環研が担当する北太平洋域観測データの品質を判断するため、実際にデータ処理の経験を積んだデータマネージャーの識別眼は欠かすことができない。そこで本課題では、国環研の協力貨物船観測データについて迅速なデータ確定を行い国環研のデータベースやSOCATに登録するだけでなく、北太平洋海域の責任機関として他機関の観測データについて品質確認を厳格に実施しSOCATに貢献することを目標とする。またSOCATでは近年CO2に関連した生物化学パラメータについても付加することが可能となったため、今回導入する生物センサーによる群集組成データについてもデータ確定後に提出することを検討する。さらに国内他機関が保持するpCO2観測データについてSOCATへの登録と品質向上を支援し、pCO2観測網における日本のプレゼンスを高める活動を行う。
 SOCATは現在、Global Carbon Projectの年次レポートであるGlobal Carbon Budgetによる海洋CO2吸収量評価に積極的に貢献するため年次公開を予定している。そのため、データ提出や品質確認作業について厳しいスケジュールの中本課題内で取り組む必要がある。
・本課題での研究内容
2022-26年度 北米航路船・オセアニア航路船、水研観測データ確定処理、観測ウェブサイトでのデータ公開(国環研)、SOCAT各年度版データの北太平洋及び沿岸域の品質保証・品質管理(QA/QC)、国内他機関のデータ提出促進活動
(3)データベースを利用した炭酸系分布推定
 本課題では、サブテーマ(2)で貢献したSOCATデータベースを利用することで、ニューラルネットワーク手法による全球pCO2分布を推定し、大気海洋間CO2交換量変動を評価する。ニューラルネットワーク手法では、pCO2観測データに加えて時空間的に充足するモデル出力や衛星観測による物理生物データセットを利用する。北太平洋についてはサブテーマ(1)で得られる生物群集組成のデータを利用することにより、種組成の違いを考慮したpCO2分布推定と大気海洋間CO2交換量評価を行うため、生物センサー観測による植物プランクトン群集組成変化と衛星観測による海色データとの関係についても本課題内で検討し解析を行う。また同サブテーマで取得する表層炭酸系観測データを用いて北太平洋のアルカリ度分布を推定し、pCO2分布と組み合わせることで長期pH等の炭酸系分布推定を行う。次に北太平洋での推定手法を全球に適用し、海洋炭酸系観測データセットを用いてpH等の全球炭酸系分布推定に取り組む。このようして生物地球化学的なパラメータの分布変動を得られた後に気候変動によるパラメータの応答について解析を行う。具体的には、エルニーニョ南方振動や北太平洋10年規模振動、北極・南極振動などの気候変動指数と各パラメータ分布偏差について卓越する変動パターンを検出するとともに、地球温暖化による各パラメータの影響についても解析を行う。また得られた時空間分布は国環研発のデータセットとして公開することで、地球化学分野のみならず海洋生態系分野での当該データセットの利用を促進する。
・本課題での研究内容
2022年度 従来手法によるpCO2分布推定と大気海洋間CO2フラックス評価
2023年度 植物プランクトン群集組成のデータを利用したpCO2分布推定手法の検討
2024年度 北太平洋域のpCO2・炭酸系分布推定、大気海洋間CO2フラックス評価と従来手法との比較
2025年度 植物プランクトン群集組成観測の知見を生かした全球pCO2分布推定手法の検討
2026年度 全球海洋pCO2・炭酸系分布推定と大気海洋間CO2フラックス評価

今年度の研究概要

国環研と水研がこれまで共同で構築してきた太平洋域の海洋表層観測網を活用し、沿岸域から外洋域までの炭酸系の時空間変化に加えて、生物センサー観測で取得する同時空間解像の植物プランクトン群集組成の関係を調べることで、北太平洋および南北太平洋西部海域の海洋生態系変動による炭酸系への影響について評価する。。
(2) 国際統合データベースへの貢献
 GEOSS計画の構成要素の一つとして世界各国の海洋CO2観測研究者が取り組んでいる国際統合pCO2観測データベースSOCAT(Surface Ocean CO2 ATlas)について国環研が引き続き太平洋の責任機関として品質管理における主導的な役割を果たすことで、Global Carbon Projectが発行する年次レポートGlobal Carbon Budgetでの海洋CO2吸収量評価に貢献する。
(3) データベースを利用した炭酸系分布推定
 SOCATデータに基づく、海洋生態系変化を考慮した太平洋pCO2分布推定手法検討し、全球海洋への応用展開による海洋CO2吸収量を評価することで、生態系変化による炭酸系分布変化の検出を目指す。また精緻化した全球炭酸系分布を用い、エルニーニョ南方振動や北太平洋10年規模振動、北極・南極振動などの気候変動要素が大気海洋間CO2フラックス分布などに与える影響について詳細に解析する。

外部との連携

水研の小埜恒夫主幹研究員および水研の山口珠葉研究員が本課題に参画することで沿岸域から外洋域に至る広域的な時空間変動の検出が今後も期待できる。

課題代表者

中岡 慎一郎

  • 地球システム領域
    大気・海洋モニタリング推進室
  • 主任研究員
  • 博士(理学)
  • 理学 ,地学,物理学
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担当者