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福島第一原子力発電所周辺の潮間帯生態系にみられる異変の原因究明(令和 4年度)
Elucidation of causal factors for abnormalities observed in intertidal biota near the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, Japan

研究課題コード
2222NA003
開始/終了年度
2022~2022年
キーワード(日本語)
潮間帯,巻貝,個体数密度,繁殖,通年成熟,福島第一原子力発電所
キーワード(英語)
intertidal zone,prosobranch gastropod,population density,reproduction,consecutive sexual maturation,Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant

研究概要

 2011年3月11日に発生した東日本大震災と、付随して起きた東京電力福島第一原子力発電所(1F)における炉心溶融事故は、地震・津波による沿岸環境の物理的改変とともに広範な放射能汚染をもたらした。環境中の放射性核種濃度やその時空間的な変化、動態に関する調査報告は比較的多い反面 、生態系の変化や生物に対する影響に関する調査報告は少ない。そのため、生態系の変化や生物影響の全貌や原因等に関しては不明な部分が多い。
 課題代表者らは、2011年12月から放射線医学総合研究所並びに福島県とともに1Fの半径20km圏内(警戒区域;当時)で潮間帯における生態調査を始め、2012年10月以降は 福島県沿岸で試験底曳き・環境調査も並行して進めてきた。このうち、潮間帯調査では、1)1F近傍の潮間帯に棲息する貝類やカニ類などの無脊椎動物の種数と個体数密度が減少し、2)その回復の兆しが観察されるまでに4〜5年を要するなど、回復が著しく遅れ、3)肉食性巻貝イボニシは、通常、年1回夏季に性的に成熟するが、1F近傍では2017年4月から5年に亘ってほぼ周年、性成熟が持続する通年成熟現象がみられることが明らかとなった。
 本研究では、1F近傍における毎月の潮間帯調査のほか、個体数密度解析、イボニシの生殖巣の組織学的観察、中枢神経系・生殖器官における遺伝子発現変動の網羅的解析等の生物学的解析、トリチウム等の放射性核種や有害化学物質等に関する化学分析、さらに放射性核種やその他の有害物質等をイボニシの成体や浮遊幼生に曝露させる室内実験を組み合わせて実施することにより、個体数密度の減少や回復の遅延、生殖異常が引き起こされた原因とメカニズムの究明を目指す。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

 本研究課題は、1年間の準備研究(2022年度)を行い、その進捗によって本格研究(2023〜2025年度)へと移行する。2022年度は、準備研究として、以下のように進める。
 福島県の帰還困難区域内にある1F周辺の定点で定期的に調査を行い、潮間帯における無脊椎動物の種数や個体数密度等、肉食性巻貝イボニシの棲息密度、イボニシの性成熟の周期性や産卵生態等を調査し、1F近傍(大熊町夫沢)におけるイボニシの通年成熟現象も調べる。
 一方、室内実験で使用する放射性核種のうち、放射性テルル(Te-132)以外の使用予定核種は、日本アイソトープ協会から購入する。準備研究では、放射性ヨウ素(I-131)と放射性セシウム(Cs-134)を用いて、肉食性巻貝イボニシに対する予備的な曝露実験を実施して知見を得る。
 イボニシ浮遊幼生に対するセメント由来重金属、pH、濁度の個別単独曝露と複合曝露の各実験に関連して、砂やベントナイト、セメントを海水に投入した場合のpH、濁度及び重金属濃度を調べる。また、試験溶液の調製や曝露期間(実験期間)等の条件検討を行う。
 LC/MSによる海水中の化学物質の同定及び定量に向けたシステムの立ち上げを図る。
 共同研究を実施している広島大学において、組織中の遺伝子発現を網羅的に定量・解析できるRNA-Seq法を用いてイボニシの脳における遺伝子発現の変化を調べ、通年成熟を起こしたイボニシ脳では多くの神経ペプチドの前駆体遺伝子の発現が低下していることが明らかとなったことから、この知見を基に、通年成熟のマーカーとなる神経ペプチドを選別し、定量的PCR法などに応用して通年成熟の程度を簡便に測定する方法を準備期間中に確立する。

今年度の研究概要

 福島県の帰還困難区域内にある1F周辺の定点で定期的に調査を行い、潮間帯における無脊椎動物の種数や個体数密度等、肉食性巻貝イボニシの棲息密度、イボニシの性成熟の周期性や産卵生態等を調査し、1F近傍(大熊町夫沢)におけるイボニシの通年成熟現象も調べる。
 一方、室内実験で使用する放射性核種のうち、放射性テルル(Te-132)以外の使用予定核種は、日本アイソトープ協会から購入する。準備研究では、放射性ヨウ素(I-131)と放射性セシウム(Cs-134)を用いて、肉食性巻貝イボニシに対する予備的な曝露実験を実施して知見を得る。
 イボニシ浮遊幼生に対するセメント由来重金属、pH、濁度の個別単独曝露と複合曝露の各実験に関連して、砂やベントナイト、セメントを海水に投入した場合のpH、濁度及び重金属濃度を調べる。また、試験溶液の調製や曝露期間(実験期間)等の条件検討を行う。
 LC/MSによる海水中の化学物質の同定及び定量に向けたシステムの立ち上げを図る。
 共同研究を実施している広島大学において、組織中の遺伝子発現を網羅的に定量・解析できるRNA-Seq法を用いてイボニシの脳における遺伝子発現の変化を調べ、通年成熟を起こしたイボニシ脳では多くの神経ペプチドの前駆体遺伝子の発現が低下していることが明らかとなったことから、この知見を基に、通年成熟のマーカーとなる神経ペプチドを選別し、定量的PCR法などに応用して通年成熟の程度を簡便に測定する方法を準備期間中に確立する。

外部との連携

広島大学 森下文浩 助教(大学院統合生命科学研究科)

関連する研究課題

課題代表者

堀口 敏宏

  • 環境リスク・健康領域
    生態系影響評価研究室
  • 室長(研究)
  • 博士(農学)
  • 水産学,生物学,解剖学
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担当者