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2016年10月31日

私たちの消費とサプライチェーンを通じた資源の利用

特集 新たな段階の循環型社会づくり
【シリーズ研究プログラムの紹介:「資源循環研究プログラム」から】

中島 謙一

「資源」と「繫がり」

 「資源」という用語を、辞典等で調べると、『1. 自然から得る原材料で、産業のもととなる有用物。土地・水・埋蔵鉱物・森林・水産生物など。天然資源。「海洋資源」「地下資源」 2. 広く、産業上、利用しうる物資や人材。「人的資源」「観光資源」』(デジタル大辞泉より)などの解説を目にします。私たちは、経済活動を営む上で、多種多様な資源を用いており、その資源を利用するに際して、他者や地球環境と密接な「繋がり」を有しているのは紛れもない事実です。しかしながら、経済のグローバル化が進むと共に、個々の役割分担が細分化されている今日において、その「繋がり」を認識する機会がさほど多くないのも事実かもしれません。例えば、私たちが日頃から口にしている米などの穀物は、農業生産者の方が生産した後、市場や販売業者など様々な人を介して食卓に運ばれてきます。また、農業生産の際、植物の育成に必要とされるりん(P)などの栄養塩は、肥料などとして供給されますが、その肥料や肥料の原料となる化学製品の生産を介して、世界の国々との繋がりを有しています。なお、このりん資源(りん資源の隠れた国際フロー)[1] は、各国の経済活動を支える食料調達とも密接にかかわる事から戦略的な管理や調達への関心が高まっている資源の1つです。この他、皆さんが、日ごろから使っているタブレット端末やスマートフォンなど、身の周りのありとあらゆる製品やサービスは、その供給(Supply)に関わる繋がり(Chain)、すなわちサプライチェーンを介して、多種多様な人々や国々、更には、地球環境とも繋がりを有しています。

持続可能な資源管理のために

 近年、新興国の経済発展や先進国における技術革新等に伴って資源需給を取り巻く状況は急速に変化し続けています。この世界規模での経済成長に伴う急速な資源利用の拡大と地球環境の劣化を背景に、国連環境計画(United Nations Environment Programme, UNEP)では、国際資源パネル(International Resource Panel)を2007年に設立して、科学的な知見に基づいた包括的な議論を展開すると共に、持続可能な資源管理の重要性とその推進力としての経済成長と資源利用・環境影響のデカップリング(切り離し)の重要性を指摘しています[2]。他方、Hoekstraらは、経済成長に伴う環境容量(地球環境が持続可能であるための資源の消費や環境負荷の排出の許容量)の超過[3]を、Nassarらは、銅などを事例として、地政学的な影響等による資源の供給構造の不安定さ[4] を指摘しました。これらを踏まえると、現代社会においては、資源制約と環境制約を念頭に、資源利用のあり方を見直して、社会の持続可能性を強化する事が重要な課題となっていると言えます。

 これらを背景に、資源循環・廃棄物研究センターでは、物質フロー・サプライチェーンの同定を進めると共に、環境問題を含めてサプライチェーンに内在する多様なリスク要因の把握と定量化、更には、それらの管理・改善のための戦略検討に取り組んでいます。例えば、温暖化対策技術などとも密接な関わりのある資源では、ニッケルを事例として資源採掘・製錬等により誘引される環境負荷の把握[5]、あるいは、ネオジム・コバルト・プラチナを事例として資源の供給に関わるリスクの同定[6] などを実施してきました。いずれの研究においても、私たちの生活が経済活動を通じて、資源産出国などの他国と密接な関わりを有している事を明らかにしてきました。また、資源の供給に関わるサプライチェーンには、供給の制約となり得るリスク要因が存在する事などを定量的に示してきました。

 例えば、ニッケルについて、目に見えるところでは、自動車には、耐熱性・耐食性が求められる吸排気管の材料として、ステンレス(クロムやニッケルを添加した鉄系合金)が使われています。また、住宅の給湯機器や台所のシンクにもステンレスが利用されています。一方、目に見えないところでは、電気を発電するための施設にもニッケルは必要とされています。私たちは、火力発電等により発電された電気を利用していますが、この発電の為に、ニッケルを含む耐熱材料や耐食材料が使われています。このように私たちは多種多様な製品・サービスを介しニッケルを利用しています。このニッケルの産出国は、生物多様性が豊かな国や地域としても知られるインドネシアやフィリピン、ニューカレドニアなどが主要な産出国であり、日本はニッケルの鉱石・中間生成物等をこれらの国々から輸入して加工して上述の様々な用途に利用しています。他方、Jaffré[7] らあるいはMoran[8] らは、ニッケルの採掘活動に伴う動植物の生息域の汚染や破壊などの影響を指摘しています。ご存知のように、生物多様性の保全は、対策が緊要に求められている地球環境問題の1 つであり、他の資源の利用と同様にニッケルの利用においても配慮が必要な問題と言えます。つまり、私たちの生活は、経済活動を通じて、サプライチェーンに関わる様々な国や地域との「繋がり」、更には、地球環境との「繋がり」を有しているのです。

 他の事例を含めて、上記の研究の一部は、学術論文の他、これまでのオンラインマガジン『環環』の記事などでも、「ニッケルの生まれ故郷(産出国)を訪ねて」[9]「物質フロー分析でクリティカルメタルの国際フローを解明する」[10]「世界に広がるサプライチェーンと温室効果ガスの排出管理」[11]「資源利用の高度化・高効率化を目指して」[12]などとして紹介させて頂きました。この機会に是非ともご一読頂ければと思います。

 さて、私たちの研究センターでは、本年度から資源循環研究プログラムのなかで、「消費者基準による資源利用ネットワークの持続可能性評価とその強化戦略の研究」と題したプロジェクト(図1)をスタートさせました。将来像を含めて、日本の経済活動が誘引する資源利用と環境影響、サプライチェーンに内在する諸問題、更には、その管理方策等について研究を実施していく予定です。今後、随時、研究成果を公表していくと共に、より効果的な情報発信を心がける所存です。ご期待ください。

プロジェクト概念図(クリックすると拡大されます)
図1 資源循環研究プログラム「消費者基準による資源利用ネットワークの持続可能性評価と その強化戦略の研究」プロジェクト(PJ1)の概念図
(作画:高柳 航、国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター)

参考文献

[1] http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201510.html
[2]United Nations Environmental Programme, International Resource Panel,
http://www.unep.org/resourcepanel/
[3]A.Y. Hoekstra and T.O. Wiedmann, Humanity’s unsustainable environmental footprint, Science, 344(2014), 1114-1117
[4]N.T.Nassar, et al., Criticality of the Geological Copper Family, Environ. Sci. Technol.,46(2012), 1071-1078
[5]K. Nakajima, et al., Global supply chain analysis of nickel importance and possibility of controlling the resource logistics, Metall. Res.Technol., 111(2014),339-346
[6]K.Nansai, et al., Global Mining Risk Footprint of Critical Metals Necessary for Low-Carbon Technologies: The Case of Neodymium, Cobalt,and Platinum in Japan,Environ. Sci. Technol., 49(2015), 2022-2031.
[7]T.Jaffré, et al., Threats to the conifer species found on New Caledonia's ultramafic massifs and proposals for urgently needed measures to improve their protection, Biodivers Conserv., 19(2010), 1485-1502.
[8]D.Moran, et al. On the suitability of input-output analysis for calculating product-specific biodiversity footprints, Ecological Indicators,60(2016), 192-201
[9]
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/genba/201307.html
[10]
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kenkyu/201412.html
[11]
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kisokouza/201210.html
[12]
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kenkyu/201406.html

(なかじま けんいち、資源循環・廃棄物研究センター 国際資源循環研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

筆者の中島謙一の顔写真

振り返ると小学生の頃に学研の科学雑誌「UTAN」を購読していたことが 環境問題に関心を持ったきっかけだったと思います。繋がる世代の人々に、関心の種を渡せる大人になれるように励みたいと思います。(当時は、遺跡を含めた古代文明の記事に目を輝かせていた子供でした。)

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