ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2022年1月13日

ベトナム・ハノイにおける
建設廃棄物リサイクルの実現可能性と事業の成立に
向けた条件を明らかにしました

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2022年1月13日(木)
国立研究開発法人 国立環境研究所
資源循環領域 廃棄物処理処分技術研究室
 主幹研究員      石垣 智基
資源循環・廃棄物研究国際支援オフィス
 係員         野上 里紗子
 高度技能専門員    稲場 香絵
 

   国立環境研究所、埼玉大学、ハノイ建設大学、資源環境戦略研究所(ベトナム)の研究者らは、科学技術振興機構(JST)および国際協力機構(JICA)が支援する地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の枠組みにおいて、ベトナム国内における建設廃棄物の適正管理のための調査と技術開発を共同で実施しています。その一環として、建設廃棄物のリサイクル事業の定着に向けた調査及び評価を実施しました。建設廃棄物のリサイクルは、埋立処分・不法投棄の削減、天然資源の保全、ならびに建設業の持続可能性の確保に向けて重要な事業ですが、ベトナムでは今なお、リサイクル技術やリサイクル製品の流通、品質確保などに関連した環境が未整備であり、リサイクル事業が成立するための条件が限定的な状況にあります。今回の研究で、ベトナムのハノイにおいて、建設廃棄物をリサイクルする定置型プラントの実現性がきわめて高いことを明らかにしました。また、社会経済的な価値を考慮すれば、移動式リサイクルプラントの導入も実現可能性があることを示しました。このように、建設廃棄物のリサイクルが成立するための経済的な条件が示されたことは、ベトナム国内で高い関心を呼んでいます。
 

 日本・ベトナムの共同研究グループは、ベトナム・ハノイにおける建設廃棄物のリサイクル事業の実現可能性について経済的な評価を行い、さらなるリサイクルの導入と推進について日本の経験も踏まえた提案を行いました。

【社会的な背景と研究の経緯】

 1980年代の日本と同じく、現在のベトナムでは急激な都市化の影響で建設廃棄物発生量がかつてないほど増加しています。特に、ハノイでは建設廃棄物処理の容量を大きく超えているため、不適正な管理・不法投棄が横行しており、早急な対策が必要な状況にあります。建設廃棄物のリサイクルを拡大することが、解決への近道と考えられますが、現状では再利用の割合が10%、再資源化はほぼゼロとされており、公的なリサイクル事業および認可されたリサイクル事業者も存在していません。リサイクル事業の推進のためには、行政機関、民間事業者、および投資家に対して、事業の可能性について十分な理解が得ることが必要だと考えられます。
 こうした情報提供の一助となるべく、研究チームは、リサイクルの原料となる廃棄物の調達や、リサイクル製品の利用先など、ハノイにおける実際の状況を考慮したうえで、建設廃棄物リサイクル事業の社会経済的な実現可能性を評価しました。ハノイ市で排出される最も主要な建設廃棄物であるコンクリートがらを対象として、再生骨材を製造するプロセスを事例として、建設廃棄物リサイクル事業の財務的な指標に加え、処分量の削減や温室効果ガス排出などの外部的な影響についても加味した経済的な収益性を評価することで、事業の社会環境的な実現可能性に関する予測を行いました。建設廃棄物の発生量およびリサイクル製品の需要量予測には建設面積当たりの重量法を、財務・経済評価には割引キャッシュフロー法を適用しました。

リサイクルプラントの割引キャッシュフロー分析の図
リサイクル事業実施時と非実施時(BAU)における温室効果ガス排出量および最終処分量の比較の図

研究で明らかにしたこと

 ハノイ近郊では様々な大規模インフラ整備が計画されており、当面(2030年ごろまで)は慢性的な資材不足が推定されることから、再生骨材の潜在的な需要は高いと考えられました。事業の実現可能性の点では、再生骨材がバージン骨材に対して価格競争力があることが必要で、それには材料となるコンクリートがらの調達価格が支配的な因子です。仮にコンクリートがらの価格をトン当たり1.81米ドル(埋め戻し材料として取引される際の価格と同等)と設定した場合、定置式プラントによる事業は、内部収益率*が18%と算定され、再生骨材の製造のみで利益を生むことができ、高い事業性があることが示されました。一方、移動式プラントによる事業は、同様の条件においては直接的な事業化は厳しい(内部収益率-0.4%)ですが、最終処分量の削減・温室効果ガスの排出削減といった付随的な影響に関する収益を考慮すると、事業として成立可能であることが示されました。ベトナムでは、建設資材用途として天然資源が多量に使用されていますが、リサイクル事業の実施によって最大で、最終処分量を90%、温室効果ガス排出量を80%削減できる、という結果が示されました。これは公共の施策事業としてはもちろん、投資家にとっても魅力的な情報であるといえます。

*内部収益率(IRR):投資がどれくらいの期間で回収できるかも踏まえて、投資の効率性を示す指標。プラスであれば投資を回収できることを示しており、値が大きいほど短い期間で利益を得られることを示す。投資の効率性を判断する指標として用いられる。
**割引現在価値(NPV): (図1のデータラベルに記載)投資する対象の事業やプロジェクトが生み出すキャッシュフローを現在価値に換算した総和から、初期投資額を引いた指標。プラスであれば利益が得られることを指し、投資によって得られる利益規模の判断材料として用いられる。

研究結果を踏まえた提言

 民間のリサイクル事業においては財務的な面が最も重要であり、環境配慮に関する効果が社会的責任としてビジネスに取り入れられるのは、ベトナムではもう少し先の話です。すなわち、建設リサイクルを推進していくためには、各種の政策的な支援が必要であることが示唆されました。具体的には、日本での成功事例や諸外国の教訓を踏まえ、不法投棄に対する罰則の強化、グリーン調達法の制定と公共工事でのリサイクル資材利用の義務付け、リサイクル建材の品質基準の策定などを提言しました。

研究結果の普及情報

 本成果はすでにベトナム国内で大きな関心を呼んでおり、ベトナム科学技術省から取材を受け、建設廃棄物の適正管理のためには地域の特性に合ったリサイクルの推進が必要である、というメッセージがニュースレターに掲載されました。

(参考リンク)
https://vietq.vn/chat-thai-xay-dung-can-co-quy-dinh-tieu-chuan-ky-thuat-san-pham-tai-che-d189803.html【外部サイトに接続します】

研究助成

 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST、JPMJSA1701)と独立行政法人国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の支援を受けて実施しました。

発表論文

Hoang, N. H., Ishigaki, T., Kubota, R., Tong, T. K., Nguyen, T. T., Nguyen, H. G., Yamada, M., & Kawamoto, K. Financial and economic evaluation of construction and demolition waste recycling in Hanoi, Vietnam. Waste Management 15, 131, 294-304 (2021). doi: 10.1016/j.wasman.2021.06.014.

執筆者
Ngoc Han Hoang (国立環境研究所資源循環領域 准特別研究員)
石垣智基(国立環境研究所資源循環領域 主幹研究員)
久保田利恵子(国立環境研究所資源循環領域 研究員)
Ton Kien Tong(ハノイ建設大学建築材料学部 講師、ベトナム)
Trung Thang Nguyen(天然資源環境戦略政策研究所 副局長、ベトナム)
Hoang Giang Nguyen(ハノイ建設大学日越高度技術研究所 所長、ベトナム)
山田正人(国立環境研究所資源循環領域 室長)
川本健(埼玉大学大学院理工学研究科 教授)

そのほか関連論文

Hoang, N., Ishigaki, T., Kubota, R., Yamada M, Kawamoto K. A review of construction and demolition waste management in Southeast Asia. Journal of Material Cycles and Waste Management 22, 315–325 (2020). doi: 10.1007/s10163-019-00914-5

Hoang, N. H., Ishigaki, T., Kubota, R., Tong, T. K., Nguyen, T. T., Nguyen, H. G., Yamada, M., & Kawamoto, K. Waste generation, composition, and handling in building-related construction and demolition in Hanoi, Vietnam. Waste Management 117, 32-41 (2020). doi: 10.1016/j.wasman.2020.08.006

問い合わせ先

<研究に関する問い合わせ>
国立研究開発法人 国立環境研究所 資源循環領域
廃棄物処理処分技術研究室
主幹研究員 石垣 智基

資源循環・廃棄物研究国際支援オフィス
係員 野上 里紗子
高度技能専門員 稲場 香絵

<報道に関する問い合わせ>
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください) / TEL:029-850-2308

関連新着情報

関連記事

関連研究者