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2020年6月30日

災害に伴う環境・健康のリスク管理戦略に
関する研究

特集 災害に伴う環境・健康のリスク管理戦略に関する研究

鈴木 規之

 災害に伴う環境・健康のリスク管理を考えると、災害の直接的な被害や影響から、防災、医療、危機管理などの幅広い分野が含まれる可能性があります。これら諸課題に対し、複数の法や制度、部局によって災害対応、災害医療、コンビナート防災など危機管理、消防などとして活動が実施されてきました。このような災害に伴う環境・健康のリスク管理の課題の中で、有害物質が流出した場合のリスク管理のあり方は現在もなお十分に検討されていません。

 東日本大震災の発生直後、震災や津波に起因する有害物質の流出が懸念される事案が複数発生しました。私たちは震災直後、震災後の環境と健康のリスク懸念についていくつかの試行的な取り組みを開始しました。津波被災地における健康調査などに始まり、以降でも紹介する津波後の環境調査などを進めてきて、それらの課題を統合する形で、これら一連の研究が一つの研究プロジェクトとして現在は構成されるに至っています。本特集では、災害に伴って特に有害物質の流出や発生により健康や環境に影響が及ぶ事態に対応すべく進めてきた研究について紹介します。

 災害に伴って流出や発生があり得る有害物質には、さまざまな種類があると考えらます。平時における環境規制や排出規制での監視項目は災害時にももちろん考慮されるとしても、災害によって施設の破壊や未制御の反応などが起これば、平時には考えられないような物質の監視ニーズが発生し、分析が求められる可能性があると考えられます。通常ならば装置内で密閉系として管理されて外部への流出など考えられない物質が流出するとか、あるいは、反応の暴走により何らかの異常な物質の発生や流出が起こるようなケースが考えられます。また災害時には、緊急的な対応が限定された資源や時間の範囲で求められることになり、しかし状況は未知であるため、難しい課題であることが多かった経験があります。これらの状況に対応するため、漏洩や流出事故ではより網羅的、包括的な分析法が有効と考えて研究を進めてきました。

 また、災害に伴って考えられる流出や漏洩にはさまざまな形態や時間、空間の異なるスケールがあります。流出、火災、爆発など異なる要因、成分の流出から副生物など異なる物質、さらには消火剤や中和剤などさまざまに異なる原因により、大気、水、土壌またほかの媒体などを通じて人や環境に作用する可能性が想定できます。このようなさまざまな状況を考えるには、適切なシナリオをあらかじめ設定しておき、これを現実の状況に対応させて修正しながら対応していくようなアプローチが有効と考えられます。また、関連して、どのような物質が対象となり得るかも事前に考えおくことが有効とも思われます。これらの課題に関して、災害・事故時の放出シナリオに関する研究を進めてきました。

 東日本大震災では、沿岸域で石油成分の流出や火災などが発生しました。多環芳香族炭化水素等の汚染は現在もなお底質等に残っており、継続的な監視が行われています。また、津波によって起きた生態系への影響はなお回復過程であるため、環境、生物の継続的な観測、監視の研究も進めてきました。

 本特集では、これらの一連のリスク管理上の課題、観測・分析の課題、環境監視に関する研究を紹介します。化学物質漏洩を想定した分析法、試料採取法の研究の一端を「研究プログラムの紹介」で、化学物質放出事故におけるシナリオの類型化に関する研究を「研究ノート」で紹介するとともに、東日本大震災後の環境汚染の調査研究の事例を「環境問題基礎知識」および「調査研究日誌」で解説します。

(すずき のりゆき、環境リスク・健康研究センター センター長)

執筆者プロフィール

筆者の鈴木 規之の写真

大学での最初の研究は水道水の分析化学と変異原性の研究でしたが、それから30年あまり、さまざまな研究の機会をいただき、分析からシミュレーションまで経験することが出来ました。災害に伴うリスク管理は加えて新たな課題として取り組んでいます。

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