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2024年4月5日

共同発表機関ロゴマーク
妊婦の尿中フェノール類濃度およびその予測因子(ばく露源の予測):
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2024年 4月 5日(金)
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
 センター長 山崎 新
    次長 中山 祥嗣

 

 国立環境研究所エコチル調査コアセンターのスワンナリン・ニーラヌッチ特別研究員らは、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加する4,577名の母親を対象に、妊娠12週から16週までに採取された尿中のフェノール類※1濃度を分析し、そのばく露源を検討しました。また、このフェノール類のうちビスフェノールA(BPA)については、推定一日摂取量を計算し、一生涯毎日摂取しても健康への悪影響がないとされる耐容一日摂取量※2と比較しました。
 今回の結果では、調査した9種類のフェノール類のうち、パラニトロフェノール(PNP)とBPAの2種類が60%以上の母親の尿から検出されました。濃度は国内外の先行研究で報告された濃度と同程度かそれより低いものでした。BPAの平均推定一日摂取量は耐容一日摂取量の10分の1から100分の1程度となり、BPAのばく露が健康に害をおよぼした可能性は低いと考えられました。また、参加者が自ら回答する質問票の回答を用いてフェノール類のばく露源を探索しましたが、今回の解析からはばく露源の特定はできませんでした。
 本研究の成果は、2023年12月7日付でElsevierから刊行された学術誌『Environment International』に掲載されました。
 ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1.発表のポイント

  • 調査した9種類のフェノール類のうち、パラニトロフェノール(PNP)とビスフェノールA(BPA)の2種類が60%以上の母親の尿から検出され、濃度は国内外の先行研究と同じかそれよりも低い値でした。
  • BPAの推定一日摂取量の平均は、耐容一日摂取量の10分の1から100分の1程度の値でした。
  • フェノール類のばく露源については、今回の解析からは特定できませんでした。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血(臍帯血)、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 フェノール類は、食品や飲料の容器、子ども用の玩具といった多くのプラスチック製品、染料や洗剤、消毒剤、殺虫剤など多様な製品の原料として用いられています。最近の研究では、子どもや妊婦の尿や血液などから、ビスフェノール類が検出されたことが報告されていて、妊娠初期のBPAばく露により、早産や死産といった出産時のリスクが高まる可能性が指摘されています。しかし、フェノール類の妊婦のばく露量やばく露源についての情報は限られています。本研究では、妊婦のフェノール類ばく露を評価し、そのばく露源を予測しました。

3.研究内容と成果

 エコチル調査の参加者のうち詳細調査にも参加する4,577名の母親を対象に、妊娠12週から16週までに採取された尿中の、9種類のフェノール類(BPA、BPF、BPS、BPAF、PNP、PNMC、4-t-OP、4-NP、4-n-NP)の濃度を分析しました。BPAばく露については推定一日摂取量を計算し、ドイツ連邦リスク評価研究所の設定した耐容一日摂取量と比較しました。参加者が自ら回答する質問票から社会人口統計学的特性※3、生活環境および食事摂取量などのデータを収集し、フェノール類のばく露源を予測しました。
 今回の結果では、調査した9種類のフェノール類のうち、PNP(68.2%)とBPA(71.5%)の2種類が60%以上の母親の尿から検出されました。PNP濃度は国内外の先行研究で報告された濃度と同程度であり、BPA濃度は国内外の先行研究で報告された濃度よりも低い値でした。BPAの平均推定一日摂取量は耐容一日摂取量の10分の1から100分の1程度となり、BPAのばく露が健康に害をおよぼした可能性は低いと考えられました。質問票の回答を用いてフェノール類のばく露源を探索しましたが、今回の解析からはばく露源の特定はできませんでした。使用した質問票には、先行研究で報告されたばく露に関連する要因が含まれておらず、ばく露源を特定するための情報を十分に含んでいない可能性があります。

4.今後の展開

 今回の結果では母親の尿中フェノール類濃度は高くありませんでしたが、フェノール類は体内に取り込まれてから尿中に排出されるまでの時間が短いため、この結果は短期間のばく露を反映しています。長期的なばく露による母親およびその子どもへの影響を評価するには、ばく露源の特定のための、環境や食事のモニタリングなども含め、さらなる研究が必要です。

5.用語解説

※1 フェノール類:ベンゼン環やナフタレン環等に水酸基が直接結合した化合物。合成樹脂、防腐剤、医薬品、農薬など多様な製品の原料として用いられています。 ※2 耐容一日摂取量:環境汚染物質等の非意図的に混入する物質について、人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量のことです。 ※3 社会人口統計学的特性:年齢や職業、年収、学歴など、調査対象者の社会的な特性のことです。

6.発表論文

題名(英語):Urinary concentrations of environmental phenol among pregnant women in the Japan Environment and Children’s Study 著者名(英語):Neeranuch Suwannarin1, Yukiko Nishihama1,2, Tomohiko Isobe1, Shoji F. Nakayama1 and the Japan Environment and Children’s Study Group3 1 スワンナリン・ニーラヌッチ、西浜柚季子、磯部友彦、中山祥祠:国立研究開発法人国立環境研究所 2 西浜柚季子:筑波大学医学医療系生命医科学域小児環境医学 3 グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成 掲載誌: Environmental International DOI: 10.1016/j.envint.2023.108373(外部サイトに接続します)

7.問い合わせ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
次長 中山 祥祠
fabre(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)