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2015年2月28日

日韓中の環境研究協力 ~三カ国環境研究機関長会合(TPM)の推進~

清水 英幸

 20世紀末から中国の近代化・工業化には拍車が掛かり、それまで中国各地で指摘されていた環境(公害)問題が全国的あるいはアジア規模で顕在化してきました。このような中、日本、中国、韓国の環境大臣は、北東アジアの環境管理に主導的役割を果たし、地球規模の環境改善に寄与するため、「日中韓三カ国環境大臣会合(Tripartite Environment Ministers Meeting among China, Japan and Korea: TEMM)」を1999年以来開催しています。

 環境問題に対処するには、政治・行政レベルの協力に加え、科学的知見の共有と研究者の協働が必要です。そこで、日本、韓国、中国の中核的環境研究機関である国立環境研究所(NIES、日本)、国立環境科学院1)(NIER、韓国)、中国環境科学研究院(CRAES、中国)が北東アジアの環境問題の改善に向け、緊密に研究協力する枠組として、日韓中三カ国環境研究機関長会合(Tripartite Presidents Meeting among NIES, NIER and CRAES: TPM)が発足しました。第1回会合(TPM1)はCRAESの孟伟(MENG Wei)院長の呼びかけで3機関長が北京に集い、互いの経験・知識を共有し、研究協力を推進しようという熱意を共同コミュニケにまとめました。このとき、TPMを毎年開催することが決まり、NIESはこれまでに4回のTPMを主催しています(表1、写真1)。

表1 日韓中三カ国環境研究機関長会合(TPM)の沿革
写真1 TPMでの機関長達
(左より、TPM2、TPM5、TPM8、TPM11)

 TPM2では、3機関共通で関心の高い6つの重点研究分野を定めました。分野毎に各機関の担当研究者を決め、情報共有と協働を開始しました。その後、研究分野の追加や名称・内容の再編があり、現在では合計9分野が設定されています(表2)。各分野の協働は担当研究者間の連絡・調整に依っていましたが、TPM9で各分野をリードする主担当機関を定めました。これは原則1年で交代可能ですが、TPM11では主担当機関をもう1年継続することを決めました(表2)。現在各機関は3分野を主担当しており、分野毎に会議やワークショップを開催しています。なお、TPMの本会議時には、主担当機関の研究者が各機関の関連活動をまとめて、それぞれの分野の研究協力について発表しています。

表2 TPMにおける9つの重点研究分野と主担当機関の変遷

 TPM1で議論された準備会合として、TPM2の本会合の前にNIERとCRAESの担当者をつくばに招聘し、TPM関連活動の情報共有や本会合の打合せを行いました。各機関の国際関連研究者と国際室が担当し、国際ワークショップの開催を含め、スケジュール調整から報告書出版まで協力して取りまとめました。その活動は各機関長から評価され、現在では本会合の3~6カ月前に必ず準備会合を開催しています。

 また、TPM2からは重点研究分野に関連する国際ワークショップを開催しています(表1)。TPM2では3機関以外の外国人研究者が、TPM5では開催地の北海道環境科学研究センター2)の研究者が参加しました。TPM8では沖縄県衛生環境研究所、環境省那覇自然環境事務所、琉球大学と、TPM11では川崎市環境局、環境省地球環境局および自然環境局と協力しました。TPM7以降のワークショップでは、原則2つの重点研究分野を選び、また一般に公開するなど、多様な環境分野の参加者が交流できるように工夫しています。

写真2 TPM主催の国際ワークショップ
(TEMM8サイドイベント)

 2006年12月にはTEMM8のサイドイベントとして、北京で国際ワークショップが開催されました(表1)。これは、北東アジアで懸念される環境問題の1つである黄砂に焦点を当て、半乾燥地域の砂漠化から大気環境変動までを包括したTPM主催の環境会議でした。三国の環境大臣を招き、100名以上の研究者の参加を得て、真摯な議論が繰り広げられ、モンゴルを加えた北東アジアの関係研究者間で情報が共有されました(写真2)。

 TPMではスタディツアーとして各主催機関などの環境関連施設や調査地を視察しています。日本ではこれまでに、NIESの本構内施設や野外モニタリングサイト、環境省や共同研究機関の施設などを訪れました(写真3)。スタディツアーでは、実際の研究現場を視察しながら、各国で実施されている様々な調査研究活動について理解を深め、情報の共有と相互比較を行っており、関係する研究者が今後の協働を考察するための重要な機会となっています。

写真3 TPMスタディツアーで訪れた野外環境研究施設
(左より、奥日光環境観測所、落石岬地球環境モニタリングステーション、戸田岬大気・エアロゾル観測ステーション、富士北麓フラックス観測サイト)

 TPMでは重要な議論について共同コミュニケを作成し、各機関長が署名しています。この他、TPM5では「淡水汚染に関する共同研究の議事録」が3機関の間で、またTPM9では「東アジアの大気環境の実態解明と影響評価に関する共同研究についての覚書」がNIESとCRAESの間でまとめられ、研究推進に役立っています。NIESとNIER、CRAESの間では様々な共同研究が実施されていますが、TPM7での議論が端緒となり、新たに「東アジア標準化に向けた廃棄物・副産物の環境安全品質管理手法の確立」に関する研究が推進された例もあります。

 災害環境研究など新しい重点研究分野もあり、研究機関間の協働のレベルには分野間で差があります。しかし、TPMでは友好、交流、協力、相互利益の原則の下で、真摯な議論と将来の研究協力が話し合われています。これまで各機関長は一貫してTPMおよび重点研究分野の重要性を指摘し、各分野の担当研究者やワーキンググループメンバーの協働を奨励しています。TPM11では喫緊の環境問題の解決に資するため、NIES、NIER、CRAESの実用的実際的な研究協力の必要性が強調され、TPMが北東アジア地域の環境保全/改善に向けた研究の有効なプラットフォームとしていっそう重要になると感じました。より多くの研究者がTPM活動に参加し、更に共同研究をリードして欲しいと思います。著者は今後も、砂漠化や黄砂、大気汚染などの環境変動と植生に関連した研究を日本やアジアで推進する予定ですが、北東アジアの環境問題解決に資するTPM活動には、研究者として今後も協力したいと考えています。(詳細は「http://www.nies.go.jp/kokusai/tpm/index-e.html#tab1」参照)

(しみず ひでゆき、地域環境研究センター主席研究員(企画部主席研究企画主幹))

1)2004年当時の名称は「国立環境研究院(英文名は同一)」

2)2004年当時の名称,現在の名称は地方独立行政法人北海道立総合研究機構 環境・地質研究本部 環境科学研究センター

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