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2018年9月18日

下層雲が繋ぐ温暖化時の気温と降水量の変化

1.発表者:

渡部 雅浩(東京大学大気海洋研究所 教授)
釜江 陽一(筑波大学生命環境系 助教)
塩竈 秀夫(国立環境研究所地球環境研究センター 主任研究員)
鈴木健太郎(東京大学大気海洋研究所 准教授)

2.発表のポイント: 

◆地球温暖化時に伴う気温変化の指標として用いられる平衡気候感度(注1)および、降水量変化の指標である水循環感度(注2)には、それぞれ1.5~4.5℃と1℃あたり2~3 %という幅がありますが、相互の関係はこれまで不明瞭でした。
◆温暖化時の雲の応答が2種類の感度を繋ぐという理論的仮説を全球気候モデル(注3)による温暖化シミュレーションで検証した結果、平衡気候感度が大きいと水循環感度が小さくなるという逆比例の関係が明らかになりました。
◆衛星観測データでCMIP5(注4)のシミュレーションを制約した結果、水循環感度は温暖化シミュレーションによる直接推定値よりも実際には3割ほど小さいことが明らかになりました。これは、温暖化で地球全体の降水量は想定したほど増えない可能性を示すものです。

3.発表概要:

   地球温暖化による今世紀終盤までの地球の気温上昇量は、大気中に排出される温室効果ガスの量だけでなく、気候システムが温暖化を増幅するか抑制するかによっても決まります。温暖化時には、さまざまな気候フィードバックが働くことが知られており、あるものは気温上昇を増幅し、あるものは抑制します(図1)。理論的に明らかなフィードバックもありますが、働きが複雑なために正確な値が分かっていないフィードバックもあります。中でも、温暖化時に雲がどう変化するかで決まる雲フィードバックには大きな不確実性があり、そのために平衡気候感度には3℃ものばらつきが存在します。
   気温が上昇すると、一般に大気中の水蒸気が増え、降水量も増えます。しかし、水蒸気の量は熱力学の法則に従って1℃の昇温あたり約7%増えることが確実であるのに対し、降水量の増加はそれよりも小さく、1℃あたり2~3%という幅でしか増えません。この理由は、降水量の変化は地球全体で見れば蒸発量の変化に等しく、それらは大気のエネルギーバランスで決まる量であるためです(図1)。この1℃の昇温あたりの降水量の増加量は、温暖化時の水循環の感度を決める重要な指標ですが、これまで、平衡気候感度と水循環感度は別々に推定されてきました。
   東京大学大気海洋研究所の渡部雅浩教授らの研究チームは、気候システムおよび大気のエネルギー収支に関する考察から、大気下層の雲の変化が2つの感度を関連付けるという仮説を提唱し、それを東京大学・国立環境研究所などで共同開発された日本の気候モデルであるMIROC5.2(注5)を用いたシミュレーションで確かめました。この新しく特定されたメカニズムでは、下層雲が温暖化時に減少すると日射の反射が減少することで正の雲フィードバックをもたらし、平衡気候感度が大きくなる一方、大気から出てゆく余剰な赤外エネルギーも減少するために、大気のエネルギーバランスから降水量の増加が小さくなります(図2)。シミュレーションから、こうした平衡気候感度と水循環感度の反比例関係が明瞭に見出されました。さらに、CMIP5の25の気候モデルでも、同様の雲の働きがあることが分かりました。これに、衛星観測による放射データを組み合わせることで水循環感度を制約することを試み、降水量の増加はCMIP5気候モデルのシミュレーションから直接推定される値よりも約30%も小さくなるという結果が得られました。
   本研究成果は、気候のエネルギーバランスから決まる気温および降水量の変化という最も基本的な温暖化のメカニズムに新たな視点を提示するもので、今後の温暖化予測にとって非常に重要な知見を提供しています。
   上記の成果は、9月17日付でNature姉妹紙のNature Climate Change誌に掲載されます。

4.発表内容:

[背景]

   平衡気候感度は、温室効果ガスが増加した結果生じる地球温暖化の度合いを記述する最も基本的な量です。その定義は、大気中の二酸化炭素濃度が倍増した後で気候システムが再び平衡に戻ったときに地球全体の地表気温が何度上昇するか、ということです。これはある種、理想的な量で、現実の温暖化時の気温上昇とは違うように思えますが、実際には平衡気候感度と現実の温暖化時の気温上昇の間にはよい関係があります。平衡気候感度は直接観測できる量ではないため、気候モデルで理想的に二酸化炭素濃度を変えた実験から評価します。しかし、気候感度を決めるさまざまな気候フィードバックには不確実性があり、現在の気候モデルにはフィードバックを生じる物理過程に誤差があるため、複数の気候モデルで平衡気候感度を評価すると、すべて異なる数値になります。IPCC AR5では、平衡気候感度の推定値は1.5~4.5℃とされており、この3℃の幅は約30年前から狭まっていません。平衡気候感度の推定は温暖化の緩和策にとっても重要な意味をもちます。もし、「真の」平衡気候感度が推定値よりも低ければ、気候の安定化を目指す上で将来排出可能な温室効果ガスの量は多くなる(あるいは逆)からです。平衡気候感度の不確実性の第一の要因は、温暖化時に雲の被覆量や光学特性がどう変化し、それが放射を介して気候にどうフィードバックするかがよくわかっていないためです。特に、低緯度海上に見られる下層雲のフィードバックが不確実であることが、平衡気候感度の推定幅を狭める阻害要因になっています。
   地球全体の降水量は温暖化で増加することがほぼ確実に予測されていますが、平衡気候感度と同様にその推定値には幅があります。ここで重要なのは、気温1℃の上昇あたりの降水量の変化(すなわち水循環感度)であり、CMIP5気候モデルの推定値では1℃あたり2~3%の増加となっています。気温と異なり、降水量は地域によって増加することも減少することもあり得ますが、地球全体で平均した水循環感度はそれら地域の降水変化のベースとなる量です。平衡気候感度が大気上端でのエネルギーバランスで決まるのに対し、水循環感度は大気全体のエネルギーバランスが決定します。温室効果ガスが増加すると大気は上下に余剰な赤外エネルギーを放射することで、一方では地表を暖め、他方で大気を冷却します。大気の熱容量は小さいので、放射による冷却は地表からの蒸発による潜熱供給が増加することでエネルギーがつりあいます。地球全体では蒸発量と降水量は等しいため、このことは降水量の増加を意味します。水循環感度の不確実性は、大気からの放射変化が水蒸気や雲などの変化に依存することにありますが、平衡気候感度と違い、雲の変化が水循環感度にどう影響するかはさほど議論されていませんでした。特に、晴天域の放射の変化は平衡気候感度の不確実性に重要でないことから、雲のフィードバックが2つの感度を繋げるのではないかという仮説を提案しました(図2)。
   渡部雅浩教授らの研究チームは、まず大気上端と大気のエネルギー収支を考え、それらが放射の変化を介して相互に関係するはずであると考えました。このメカニズムでは、下層雲が温暖時に減少すると日射の反射が減少して平衡気候感度が大きくなる一方、大気から出てゆく余剰な赤外エネルギーも減少するために水循環感度は小さくなります。この反比例関係を、研究チームは気候モデルのシミュレーションを実施して確かめ、さらに詳しいプロセスを解析しました。

[研究方法の概要]

   MIROC5.2の大気モデルを用いて、30年間の気候シミュレーションを行いました。単一のモデルで異なる水循環感度などを実現するために、地球表面からの蒸発量を制御するパラメータβを導入し、気候平均場の水循環が弱いケース(β=0.5)、標準のケース(β=1)、強いケース(β=2)、非常に強いケース(β=4)の4通りで現在気候のシミュレーションおよび海面水温を4℃上昇させた温暖化シミュレーションを実施しました。気候フィードバックと水循環感度は、両者の差を全球地表気温の上昇量(およそ4℃)でスケール(割り算)することで計算されます。平衡気候感度を求めるために温室効果ガスによる直接的な放射強制が必要なので、それは別途海面水温を変えずに二酸化炭素濃度を倍増させた実験を実施することで求めます。これらのシミュレーションをまとめて地表蒸発摂動実験(Perturbed Surface Evaporation Experiment、PerSE実験)と呼ぶことにします。
   モデルの平均状態を変えるパラメータは一つではないので、上記のPerSE実験に加えて、同じ気候モデルで行った56メンバーのアンサンブル物理摂動実験(注6)の結果も解析します。また、メカニズムが特定の気候モデルによらず働くことを確認するため、CMIP5の25の気候モデルによる二酸化炭素濃度瞬時4倍増実験のデータも用います。

[結果]

   4通りのPerSE実験で、気候フィードバックおよび降水量変化の違いを比較しました(図3a)。現在気候の水循環が活発な実験(β=4)では、1℃の昇温あたりの降水量変化が最も小さく(+2%)、かつ気候フィードバックが最も大きく(1℃あたり-1.3 Wm-2)なりました。水循環が不活発な実験(β=0.5)では逆に、水循環感度が最大(1℃あたり+3.5%)かつ気候フィードバックが最も小さく(1℃あたり-2.0 Wm-2)なりました。これらのことは、制御パラメータのβが期待通りに2つの感度を変えたことを意味しており、その関係は図3bに示した通りきれいな逆相関となります。同様のことは、複数のパラメータに摂動を加えたアンサンブル物理摂動実験でも確認できます(図3b)。従って、単一のモデルを使えば、平衡気候感度と水循環感度の間に明瞭な関係が見いだせることが分かりました。一方で、CMIP5の気候モデルにはそこまで明らかな逆相関がみられません(図3b)。各々の気候モデルの誤差要因が異なっていることが、2つの感度の間の関係を見えにくくしていると解釈できます。
   PerSE実験で平衡気候感度と水循環感度の間の反比例関係をもたらしているのがどのような物理プロセスなのかを知るために、エネルギー収支および雲量の変化を解析しました。大気上端のエネルギーバランスから、平衡気候感度のばらつきをもたらしているのが雲の増減による日射の変化(雲の短波放射のフィードバック)であり、そのことは下層・中層の雲被覆量の変化と整合的でした(図4)。すなわち、現在気候の水循環が活発な実験(β=4)では、下層・中層雲が最も減少することが正の雲フィードバックを介して高い平衡気候感度をもたらすと同時に、大気の赤外放射冷却を緩和することで水循環感度を低くするように働いていました。現在気候の水循環が不活発な実験(β=0.5)では逆のことが生じています。これは、仮説として提唱したメカニズム(図2)が気候モデルの中で実際に起こっていることを意味します。
   2つの感度に対する雲の効果は、一つは大気上端での雲の短波放射のフィードバック(平衡気候感度を変える)であり、もう一つは地表での雲の長波放射(すなわち赤外線)のフィードバック(水循環感度を変える)です。これらのフィードバックは、PerSE実験では当然強い反比例関係がありますが、CMIP5の気候モデルで同様の解析を行うと、明らかな逆相関関係があることが分かりました(図5)。CMIP5のモデルでは平衡気候感度と水循環感度の間に強い関係が見られませんでしたが(図3b)、プロセスのレベルでは両者を繋ぐ雲の効果に関連があることが示されたことになります。
   地表での雲の長波放射のフィードバックはどのモデルでも負の値を示しますが、衛星観測データを組み合わせた解析から、フィードバックの強さが系統的に過小評価されていることが示唆されます(図6a)。雲の長波放射のフィードバックは、気候平均場における雲の長波放射効果に比例することが、両者の散布図から分かりますが、5つの衛星観測データから得られる気候平均場の雲長波放射効果(図6aのピンクの線)を重ねると、地表の雲長波放射のフィードバックは、モデルから直接得られる中央値よりも大きな負の値で、1℃あたり-1.2~-0.7 Wm-2の範囲内になると見積もられます(図6aの灰色の領域)。図2の模式図から、これは気候モデルが雲の変化による大気の加熱を過小評価していることに等しいので、大気の長波放射冷却がより強く緩和されることで水循環感度は小さくなります。また、図6aに示される衛星観測データによる制約条件を図5にあてはめると、気候モデルは大気上端での雲の短波放射のフィードバックも過小評価していることになり、制約された雲フィードバックはおよそ正の値になります(図5に黒で示されたエラーバー)。近年の多くの研究は、下層雲のフィードバックが正であることを示唆しており、この結果はそれらと整合的です。
   最後に、観測データで制約された水循環感度がどうなるかを定量的に評価しました。本研究では、大気の長波放射冷却を修正しますが、過去の研究で、大気の短波放射加熱にも大きな誤差があることが示されていますので、ここではそれら2つの修正をともに施した結果を示します(図6b)。どちらの修正でも、水循環感度は気候モデルのデータから直接推定される値(1℃あたり2.6±0.28 %)よりも小さくなり、両者を統合すると、1℃あたり1.8±0.36 %と水循環感度は3割程度小さくなりました。これは、温暖化によって全球降水量は従来考えられていたほどには増えないということを示唆する結果です。

[研究の意義]

   本研究の意義の第一は、平衡気候感度と水循環感度という温暖化を定量化する上で最も基本的な量の間に物理的な関連性があることを示した点です。不確実性はまだ大きいですが、温暖化に対する雲の応答が2つの感度を繋ぐというメカニズムに立つと、一方の不確実性を低減できれば他方もより確実な推定が可能になることを意味します。
   もう一つの意義は、水循環感度の推定値が低く修正されたことです。20世紀に観測された降水量のデータを用いると、水循環感度が気候モデルの推定値よりもずっと小さいことが示されていました。この原因としては、人為起源エアロゾルなど温室効果ガス以外の放射強制の効果が考えられますが、本研究が示すように、気候モデルの水循環感度が過大評価だとすると、モデルと観測データのギャップは想定したよりも小さいということになります。

[今後の展望]

   本研究で示された平衡気候感度と水循環感度の関係をより確かな理解に繋げるには、気候モデルの誤差を減らすことと、制約に用いる地表雲放射強制データの精度を高めることが重要です。モデルの改善として、特に日射の吸収・反射を計算する際の放射計算がより正確であることが必要ですが、これは今後利用可能になるCMIP6のデータである程度実現していると期待されます。また、衛星観測データも新しいプロダクトが順次作られていますので、IPCC AR6が公開される2021年までには、さらに信頼性の高い感度の推定と不確実性の科学的な理解が進むと期待されます。

本研究は、文部科学省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」の補助を受けて行われました。

5.発表雑誌:

雑誌名:Nature Climate Change
論文タイトル:Low clouds link equilibrium climate sensitivity to hydrological sensitivity
著者:Watanabe, M.*, Y. Kamae, H. Shiogama, A. DeAngelis, and K. Suzuki
   [*は責任著者]
DOI番号:10.1038/s41558-018-0272-0

6.注意事項:

日本時間9月18日(火)午前0時 (イギリス時間:9月17日(月)午後4時)以前の公表は禁じられています。

7.問い合わせ先:

東京大学大気海洋研究所
教授 渡部 雅浩(わたなべ まさひろ)
Tel:04-7136-4387 E-mail:hiro@aori.u-tokyo.ac.jp

8.用語解説:

注1:平衡気候感度
大気中の二酸化炭素濃度が倍増して気候システムが再び平衡化したときの気温上昇量を平衡気候感度(Equilibrium climate sensitivity, ECS)と呼び、温暖化時の地球全体の地表気温の変化を表す指標として用います。実際には、二酸化炭素濃度は徐々に増えており、気候システムは平衡になっていませんが、そうした過渡的な気候の応答はECSに比例するため、理想的な条件で行う温暖化のシミュレーションからECSが推定されています。ECSの値が0.5℃違うだけで、温暖化の緩和策にかかるコストに大きな違いが生じるため、その推定幅を狭めることは、温暖化予測研究において重要な課題です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)の見積もりでは、ECSの推定値は1.5~4.5℃と3℃の幅があります。

注2:水循環感度
平衡気候感度と同様に、ただし地球全体の降水量の変化を水循環感度(Hydrological sensitivity)と呼びます。気温が上昇すればそれに比例して降水量も増えるため、水循環感度については絶対値よりも気温上昇に対する割合(1℃の気温上昇あたり降水量が何パーセント増えるか)が重要な指標となります。従来の研究では、水循環感度は1℃あたり2~3 %と見積もられています。

注3:全球気候モデル(general circulation model、GCM)
気候システムを構成する様々な要素(大気、海洋、陸面、雪氷等)及びそれらの相互作用を物理法則に従って定式化し、温室効果ガス等の変動も考慮しながら気候の長期的変動を計算するプログラム。通常、世界全体または領域で大気及び海洋を格子状に分割し、各格子で気温や風速、水蒸気等の時間変化を計算します。気候シミュレーションでは計算期間が長期にわたるため、多くの場合スーパーコンピュータが用いられます。

注4:CMIP5(Coupled Model Intercomparison Project Phase 5)
第5期結合モデル相互比較プロジェクトの略。世界気候研究計画(World Climate Research Programme, WCRP)のもとで行われている、共通の外部強制(温室効果ガスや太陽活動など)を与えて計算される全球気候モデルの比較プログラムで、IPCC AR5で引用された気候シミュレーションを統括したのがCMIP5です。CMIP5では、将来のシナリオとしてRepresentative Concentration Pathways (RCP)と呼ばれる4通りが用意されており、それぞれ今世紀末の温室効果ガスによる放射強制力が異なりますが、人為起源の硫酸ガス排出は共通して削減されるという推測が採用されています。

注5:MIROC5.2
東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所、海洋研究開発機構で共同開発されている全球気候モデルの最新版の名称。IPCC AR5で引用された気候モデルMIROC5の後継版にあたり、既に様々な気候変動研究に用いられた実績があります。

注6:アンサンブル物理摂動実験
同一の条件で、ただし異なる初期値から始めたシミュレーションの集合をアンサンブルと呼び、その中の個々の計算をメンバーと呼びます。それに加え、気候モデル内部のプロセス(放射、雲、降水、乱流など)を制御する物理パラメータの値をわずかに変えて異なる気候を作り出す(それにより不確実性の評価を行う)方法を物理摂動実験と呼びます。MIROCの物理摂動実験では、10のパラメータを同時にわずかずつ変えて56メンバーのアンサンブルシミュレーションを行いました。それぞれのメンバーで現在気候と二酸化炭素濃度瞬時4倍増実験を行うことで、平衡気候感度のばらつく要因を調べることができます。

9.添付資料:

以下の図は、http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2018/20180918.htmlからダウンロード出来ます。

気候システムにおける温暖化時のエネルギーバランスを表す模式図の画像
図1: 気候システムにおける温暖化時のエネルギーバランスを表す模式図。平衡気候感度(ΔT)を決める大気上端でのエネルギー収支は、温室効果ガスの増大による放射強制が、気候システムのフィードバックとつりあう。一方、大気のエネルギー収支は温暖化による放射冷却が蒸発の増加による潜熱加熱の増大とつりあう。地球全体で見れば、蒸発の増加は降水の増加(LΔP、Lは蒸発の潜熱)と等しいので、大気のエネルギーバランスが水循環感度を決定する。

温暖化に対する下層雲の応答が、平衡気候感度と水循環感度を結びつけるメカニズムを表した画像
図2: 温暖化に対する下層雲の応答が、平衡気候感度と水循環感度を結びつけるメカニズム。(a)平年の状態では、下層雲は日射を反射することで(日傘効果)地表面を冷やす一方、弱い温室効果をもつ(正味では冷却が勝っている)。(b) 温暖化時に下層雲が減ると、日傘効果が弱まることで正の雲フィードバックが強まり、これは平衡気候感度を上昇させるように働く。同時に、雲の温室効果減少に伴って、大気からの長波放射増加(大気を冷却する)が抑制され、それとバランスすべき蒸発の増加(すなわち降水の増加)も抑制される。

さまざまな気候モデルのアンサンブルで示される平衡気候感度と水循環感度の反比例関係を表した図の画像
図3: さまざまな気候モデルのアンサンブルで示される平衡気候感度と水循環感度の反比例関係。(a) PerSE実験における全球降水量変化(上半分)および大気上端の正味放射変化(下半分)を、全球地表気温上昇についてプロットしたもの。βの異なる4つの実験を違う色の矢印で示しています。矢印の傾きが水循環感度と気候フィードバックを表します。平衡気候感度と水循環感度が変化する方向を灰色の矢印で模式的に示しています。β=4のときには平衡気候感度が最大で水循環感度が最小になり、β=0.5のときには逆になっていることが分かります。(b)平衡気候感度と水循環感度の散布図をPerSE実験(赤)、MIROC物理摂動実験(灰色)、CMIP5の温暖化シミュレーション(青)についてプロットしたもの。それぞれのアンサンブルにおける相関係数と回帰直線を図中に示しています。

PerSE実験における全球雲量の変化を、各層で分けた図の画像
図4: PerSE実験における全球雲量の変化を、各層で分けたもの。それぞれ左からβ=4,2,1,0.5の結果を示しています。β=4の実験では下層雲が最も減少し、β=0.5の実験では逆に下層雲が増えていることが分かります。これは図2に示したメカニズムと整合しています。

平衡気候感度と水循環感度を繋ぐ雲のフィードバックの図の画像
図5: 平衡気候感度と水循環感度を繋ぐ雲のフィードバック。横軸は地表での雲の長波放射のフィードバックで、値が小さいほど水循環感度を小さくするように働きます。縦軸は大気上端での雲の短波放射のフィードバックで、値が大きいほど平衡気候感度を大きくするように働きます。図3bと同様に、MIROCのPerSE実験(赤)、MIROC物理摂動実験(灰色)、CMIP5の温暖化シミュレーション(青)の各アンサンブルの結果をまとめてプロットしています。CMIP5アンサンブルにおける相関係数を図中に示しました。灰色の領域は、衛星観測データから推定される地表雲長波放射フィードバックの範囲(図6a参照)で、この幅とCMIP5モデルの回帰直線(青線)の交点から、大気上端の雲短波放射フィードバックは最も小さくても-0.04~0.48 W/m2/℃のほぼ正の値をとることが示唆されます(図中の黒いエラーバー)。

地表の雲長波放射フィードバックの観測からの制約と、それによる水循環感度の修正の図の画像
図6: 地表の雲長波放射フィードバックの観測からの制約と、それによる水循環感度の修正。(a) 地表の雲長波放射フィードバックを横軸に、気候平均場における地表の雲長波放射効果を縦軸にとった散布図。図3b、図5と同じく、MIROCのPerSE実験(赤)、MIROC物理摂動実験(灰色)、CMIP5の温暖化シミュレーション(青)の各アンサンブルの結果をまとめてプロットしています。CMIP5アンサンブルにおける相関係数を図中に示しています。回帰直線(青線)の傾きが負であることは、気候平均場の雲長波放射効果が大きなモデルほど、温暖化時の負の雲長波放射フィードバックが大きくなることを意味しています。ピンクの線は、5つの衛星観測プロダクトから推定される、気候平均場の雲長波放射効果を示します。灰色の領域は、これらとCMIP5モデルの回帰直線との交点として求められる地表雲長波放射フィードバックの推定範囲です。各モデルの大気長波放射の変化を、ここで制約された値を用いて再計算することで、水循環感度を改訂することができます。(b) CMIP5モデルから直接見積もられる水循環感度(濃いオレンジ)、DeAngelisら(2015, Nature)による大気短波放射加熱の修正を行ったときの水循環感度(薄いオレンジ)、本研究で推定された大気長波放射冷却を修正したときの水循環感度(薄い青)、両方の修正を統合した結果、推定される水循環感度(濃い青)。修正前の水循環感度の中央値は2.6%/℃、修正後は1.8%/℃となり、ほぼ3割感度が小さくなることが分かります。

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