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2020年8月28日

パリ協定の進捗確認:
温室効果ガス観測の新しい役割

特集 マルチスケールGHG変動評価システム構築と緩和策評価

三枝 信子

 地球温暖化対策の新しい国際枠組みであるパリ協定が2020年に実施段階に入りました。パリ協定の目標は、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出量と人為的な除去量(吸収量)とを均衡させることにより(ネットゼロエミッション)、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く抑えることです。パリ協定のもとで、世界各国は協力して温室効果ガスの排出削減を進める必要があります。

 こののち、各国が実施する気候変動対策の効果を確認する上で、精度の高い温室効果ガス排出量・吸収量のデータが必要です。同時に、地球全体でネットゼロエミッションにどれだけ近づいているか、大気中の温室効果ガスの濃度は気候を安定化させるために必要と予測されている経路(経年変化)をたどっているか、もし予測される経路から外れているならその原因は何か、という視点でパリ協定の目標達成度を確認することが必要です。

 こうした中で、国立環境研究所の低炭素研究プログラム・プロジェクト1「マルチスケール温室効果ガス変動評価システム構築と緩和策評価に関する研究」では、大気中の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の濃度やそれらの地表での収支の長期観測に加え、大気中での寿命が数日から数十年と比較的短く温暖化に大きな影響を及ぼすブラックカーボンをはじめとする短寿命気候汚染物質(SLCP)の動態を解明するための研究に取り組んできました。また、それらの大気中の濃度データと大気輸送モデルを組み合わせた解析手法の研究開発を進め、地球全体、あるいは地域別の人為起源・自然起源の各種物質の排出量・吸収量の推定手法を向上してきました。

 温室効果ガスやSLCPの人為起源の排出量においては、国や地域によっては、未推計の排出源や不確実性の高い項目があるのが現状です。自然起源の吸収量・排出量においては、さらに大きな不確実性があります。例えば、温暖化に伴って融解の進む高緯度地域の凍土からの温室効果ガスの排出や、異常高温や干ばつに伴う森林火災の増加、特にエルニーニョなどの気候変動の影響により多量の炭素を蓄積する熱帯泥炭地で発生する火災による大規模排出などです。

 温室効果ガスやSLCPの地球全体での動態を明らかにし、地表における人為起源・自然起源の排出量・吸収量を高精度で推定することは、国民生活全般に影響を及ぼす気候変化予測ならびにその影響予測の向上に不可欠です。本特集では、低炭素研究プログラム・プロジェクト1でこれまでに取り組んできた研究の中から、熱帯域の大都市圏からの温室効果ガスの排出量推定の研究や、民間航空機を使った大気中温室効果ガスの地球規模観測に基づく研究を紹介するとともに、北極圏の温暖化に強い影響を及ぼすブラックカーボンの発生と輸送に関して得られた最新の知見について紹介します。いずれも、大気中の微量物質の濃度の観測やモデルを組み合わせた解析に基づき、地球全体、あるいは地域別の人為起源・自然起源の排出量・吸収量の推定をめざす研究です。今後も、こうした手法の開発と推定精度向上により、パリ協定の目標達成度の確認や、各種の温暖化対策の効果を確認するための研究を進めていく予定です。

(さいぐさ のぶこ、地球環境研究センター センター長)

執筆者プロフィール

筆者の三枝 信子の写真

外出自粛の間、妙な既視感を覚えていました。子供の頃、家に車も自分の自転車もなく、街に出るのは月1回程度。当時、野生っぽい額アジサイがお気に入りだったのが思い出され、今は団地暮らしなのについ買ってしまいました。また鉢が増えた。。。

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